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善と悪の経済学カバー

資本主義の世界で感じるモヤモヤ

皆さん、資本主義の世界をエンジョイしていますか?

一定のルールの元、皆が自由に経済活動することで社会が発展し豊かさを手にする人が増える。人類による優れた発明のひとつ「資本主義」。

資本主義、大好きですかー?

私は半々という感じ。

今は亡きソビエト連邦が行った壮大な社会実験・社会主義は、「人は競争しないと腐る」ことを証明した。

脳がバカデカいとはいえホモ・サピエンスだって動物だもの。その正体は生存競争を勝ち抜いてきた生物界のスーパーエリート、競争の世界で活動するのが健全なのだろう。

その人間の習性をうまく利用した素晴らしい仕組みだと思うよ資本主義。そういった意味では肯定的な気持ちになる。

かと言って、社会主義がダメだったから資本主義はサイコーかと言うと、はっきりイエスと言い切れないのが正直なところだ。

競争するも良しだし、金もうけも一向に構わんのだ。しかしなんつーか社会に出たり大人になってみると「おやっ?」とか「むむっ!?」となること、あるじゃないですか。

例えば、「得られる利益 > ペナルティによる損失」のような場合、ありますね。大人ならわかるね。

こういう時、ゴーサインを出すことが「ビジネス的に正解」となるじゃないですか。

つまり、経済的利益を生み出すことの前で、「倫理」や「道徳」、時には「法」ですら霞むのが資本主義の一つの側面としてある。というこの部分、これが資本主義に対して抱く「おやっ!?」と感じる頻出ケースなワケです。

日本で生まれ育った私は資本主義が唯一体験した経済システムであり、経済活動は自由にできて当たり前だと思って生きてきた。

資本主義は競争を促す構造を持つ。競争であるからして勝者がいれば敗者がいる。

人類は競争にルールを設ける知恵を持つ。不当に不利益を被る人がないようにすることがルールの目的には含まれているはずだ。

ルールのもと健全な競争が行われ勝者と敗者が決するならば何も疑問は持たないかもしれない。

しかし現在進行形で進化拡大を続ける現代資本主義は「利益の追求」が余裕で「ルール」をオーバーランする。

ニュースとか見てるとそんな出来事が世界のどこかで頻繁に起きていると感じるでしょ。

しつこく書いているこの利益の追求がルールどころか道徳や倫理より優先される点の何が「むむっ!?」となるかというと、不当に不利益を被る人が出る、最悪の場合人生が破綻したり死人が出たりすることだ。

つまり「資本主義は社会主義に比べると良いシステムかもしれんけど、犠牲者が出るシステムってダメよね」という話し。

身近で体験したこともありますし、こういう話を耳にするたび、何年経ってもズーンっと気持ちが沈み込んでしまう。

この膨張し続けるモヤモヤと向き合うにはどうすればいいのだっ!と思っていたところ、最適な本と出会うことができた。

ここまで長かったですね。

それはつまり、この記事の主役「善と悪の経済学」だ。

ほんと前置きが長くて申し訳ないが知るもんですか。私の前置きは永遠に終わらない!かもしれないぐらい止まらないからもうちょっとお付き合いを。

著者の「トーマス・セドラチェク」を知ったキッカケ

たしか2008年にリーマンショックが起きた後に放送されたNHKスペシャルだったと記憶している。

多くの経済専門家が出演し様々な問題点を指摘していた。

だがそのほとんどは、リーマンショックという金融危機それ自体を言及するものであった。

そんな中、
「毎年大儲けしてるのに増収増益しないと停滞と見做される」
「メガバンク救済など借金チャラのシステムがないと機能しない」
など、「資本主義の構造そのもの」に言及している人物がいた。

かつて共産主義国家であったチェコ出身の経済学者「トーマス・セドラチェク」である。

彼の語り口はややシニカルな響きを帯びていた。ように思う。

その姿が印書に強く残り、いつか著書を読んでみようと「トーマス・セドラチェク」の名前をメモし、ようやく十年越しに著作を読むに至ったのだ。

そう、私は前置きも長いし行動に移すまでの時間も長い。

「善と悪の経済学」の感想

目次はこんな感じ。

  • 序章:経済学の物語――詩から学問へ
  • 第1章:ギルガメシュ叙事詩
  • 第2章:旧約聖書
  • 第3章:古代ギリシャ
  • 第4章:キリスト教
  • 第5章:デカルトと機械論
  • 第6章:バーナード・マンデヴィル――蜂の悪徳
  • 第7章:アダム・スミス――経済学の父
  • 第8章:強欲の必要性――欲望の歴史
  • 第9章:進歩、ニューアダム、安息日の経済学
  • 第10章:善悪軸と経済学のバイブル
  • 第11章:市場の見えざる手とホモ・エコノミクスの歴史
  • 第12章:アニマルスピリットの歴史
  • 第13章:メタ数学
  • 第14章:真理の探究――科学、神話、信仰
  • 終章:ここに龍あり

本編約500ページ、引用文献も100ページにびっしりと記してある。良き。

資本主義社会において、「経済」と「善悪」は対極にある。

いや「善悪」は「経済」における選択肢のひとつ「添え物のようなモノ」と、少なくとも私はそのように洗脳されてきた。

しかし現代の「経済学」および「資本主義」が辿ってきた経歴とはいかなるものか。

セドラチェクは、最古の文学「ギルガメシュ叙事詩」、「旧約聖書」、「新約聖書」、「古代ギリシャ」まで遡り、経済学の萌芽を炙り出そうと試みる。

我々の祖先が辿った哲学の時代、科学の時代を再検証する。

その帰結として本書が導き出すのは「現代の経済学」と「これまでの経済学」の差異、それすなわち「善悪」なのだ!というのが本書の前半。

どんな経済学も、結局のところは善悪を扱っている。経済学は人間の人間による人間のための物語を語っているのであって、どれほど高度な数学的モデルも、実際には物語であり、寓話であり、自分を取り巻く世界を(合理的に)理解しようとする試みだと言える。
――本書 7ページより引用

かつて経済は善悪と密接にあった。時代によっては儲けることが悪とされていたり、経済活動と道徳倫理は常に一体だった。

それがいつからどこからどうしてこうなってしまったのか、かなりの章を割き、文献を引用しセドラチェクは示してくれる。

乱暴に要約すると、産業革命以降、技術や数学が進化し、人類はそれまでの宗教や倫理や哲学と密接に結びついていた経済学を切り離し、経済と科学の統合へと向かう。不確定要素の塊である善悪の概念は現代の科学・数学では吸収できる代物ではないため徐々に亡き扱いとなる。そしてすべては数理モデルで予測解説が可能なのぜサイコー現代資本主義&経済学が爆誕、という感じ。

我ながら説明が酷過ぎて笑えてくるがスマン。本書では丁寧に説得力を持って説明されているから興味を持ったらゼヒ本編を読んでみてほしい。ホントしびれるから。

そして、前置きで私が長々書いた現代資本主義に対するモヤモヤの原因は、ここにあったのだな、となる。

人間なんてものは矛盾の塊みたいな存在なわけで常に移ろう。そんな奴らが巻き起こす経済活動をナゼ科学の力で何とかなると考えたか。

ニュートンは物理学の問題を解く必要があった。そこで独自の計算式を考案した。彼は数学をツールとして使い、観察した事実を数式化することによって研究を容易に進められるようにした。だが経済学は、しばしば正反対のことをしているように見える。つまり、数学にうまく適合するように現実世界(および人間)をモデル化している
――本書 414ページより引用
経済モデルの多くは、異なる文化、社会、歴史、宗教環境を一切考慮しない抽象世界に浮かんでいる。経済学はそうしたコンテクストを完全に切り捨ててしまった。だが文化、社会、歴史、宗教を理解せずに、人間のふるまいを理解することができるのだろうか。
――本書 434ページより引用

科学は現代の最大宗教である。

これは以前読んだ「サピエンス全史」で出てきた話だったがセドラチェクも同じような指摘をしている。

【読書感想】 サピエンス全史 ユヴァル・ノア・ハラリ | neputa note

ようやく読み始め、ようやく読み終えた。内容はあらすじにある通り、取るに足らない種の一種であった我々の祖先が、遺伝子を解し、神にとって代わり、新たな種を生み出すことも不可能ではない現在へ到達するまでの

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科学以前は「いわゆる宗教」や「神話」といったものが人々の信じる存在であり、先にも書いたが、それらが経済活動に対する「定め」を提示してきた。

そう考えると、現代の最大宗教「科学」が、現代の経済をすべて語れるとすることはごく自然な流れなのだろう。

問題は、われわれ人間のコアであり矛盾発生装置である「善悪」すなわち倫理道徳を排除というか経済の下に置いたことだ。

数理モデルで人々の経済活動を分析・予測する試みに多くの成功はあったのだろう。

だが善悪を考慮することを忘れた経済学は世界を恐怖のどん底に陥れてしまう。

リーマンショックのような恐慌はその最たるもので、2020年から大流行を巻き起こした新型コロナウイルスに対して現代の経済学は何を語っているのだろうか。

チェス好きの友人は、チェス盤の横に飲み物を置き、そのテーブルを「六五番目のマス」と呼ぶ。この六五番目のマスは、実際にチェス盤を除いた全世界だと言える。この状況は、分析アプローチを思わせないだろうか。私たちはチェスについて明確に説明できるし、チェス盤に置かれた駒の動きを分析することもできる。だが重要なことが起きるのは、最も大きなマス目、つまり六五番目のマスにおいてなのだ。そもそも、プレイヤーがいるのもそこである。
――本書 456ページより引用
結局のところ、モデルは虚構である。役に立つ虚構であることを願っているが、とにかく虚構であるにはちがいない。経済学者たるものは、その虚構性を認識しなければならない。
――本書 461ページより引用

さて前半部分で現代の資本主義経済およびそれを支える現代経済学の抱える矛盾や欠落を切り裂く刃を研ぎ済まして迎える後半部分は未来へ向けた話となる。

セドラチェクは、経済学は素晴らしい学問であり、すべての学問と密接にかかわるべきモノと語る。今のように社会学や哲学や宗教学などを下に置くのではなく。

すべては人間の行動に関する話しなわけで、ごくごく普通に考えればそうだろうと思う。

金儲けを望む一方で金を失うようなこともしたがるし、何の得もないのに善意で金を使ったり、経済とは無関係なものに純粋性を感じ崇めたり、人間の思考行動は広大で矛盾に満ち満ちている。

現代資本主義における効用の最大化を目指す場合において、善悪、つまり倫理を無視して良いとすることの最も大きな罪は、伴ってしまった犠牲だと思う。

結果として成長した、発展した。しかし、その過程において犠牲となる者がいた。

その犠牲者は果たして報われるのか?という話しだ。

善悪という概念を見ないものとしなければ発展できなかった現代資本主義のフェーズが行き着くところまでたどり着いた後の揺り戻しは、どこに着地するのだろうか。

善悪を無視した要因として「善は報われるのか」に対する回答を人類が発明できなかったことはあると思われる。

善が報われるには、ただ経済的なインセンティブが善行に対して設けられるだけでは意味がない。(善行をカモフラージュする悪行とのイタチごっこが目に見える)

善が報われる世界をどう発明するのか。

GDPの成長は万人にとっていいものではないことはもう既に明らかとなっている。

セドラチェクはすべての学問と経済学がいま一度むすびつきを取り戻し発展した先に、現代への答えがあると信じているのだろう。

私は本書を通じて、経済学は数学的な理解よりももっと幅の広い魅力的な物語だということを示そうと試みた。ある意味では、経済と経済学の魂を、アニマルスピリットを、拙いながらも伝えようと試みたとも言える。魂というものは、見守り、世話をし、育てなければならない。経済学には魂はあるし、それを失うべきではない。経済学者は現実の世界について何かを主張する前に、このことを認め、理解すべきだ。
――本書 483ページより引用

熱のこもった終章からは著者が抱く希望と熱い魂を感じた。

終わりに

経済学とはまったくの無縁の素人による感想文なので適切な説明となっていない部分もあったりするので、興味を持った方がもしいたら是非是非本書を読んでみてほしいのです。

私同様に資本主義ってなんぞ?ホントいいもんなの?という疑問を抱いている方にとって思考の幅をもたらしてくれると思う。

高度成長期以降の日本しか知らない私は現在の経済システムが当たり前で、他を知らないが故に苦しんだり悩んだりしていた部分がグッと楽になったように思ったりしとります。

人類の歴史は長いし世界は広いっすね。

ついこないだまで社会主義だった国とか、キューバとか今のうちに行ってみたい。できればしばらく住んで資本主義以外の経済システムを体感してみたい。

そうなると金がいるな。善悪とか言ってらんねえ。もっともっと金を稼がなければ!!

お後がよろしいようで。

長文・駄文お付き合いいただきありがとうございました。

著者・訳者について

トーマス・セドラチェク (Tomas Sedlacek)
1977年生まれ。チェコ共和国の経済学者。同国が運営する最大の商業銀行の一つであるCSOBで、マクロ経済担当のチーフストラテジストを務める。
チェコ共和国国家経済会議の前メンバー。「ドイツ語圏最古の大学」と言われるプラハ・カレル大学在学中の24歳の時に、初代大統領ヴァーツラフ・ハヴェルの経済アドバイザーとなる。2006年には、イェール大学の学生らが発行している『イェール・エコノミック・レビュー』で注目株の経済学者5人のうちの一人に選ばれた。本書はチェコでベストセラーとなり、刊行後すぐに15の言語に翻訳された。2012年にはドイツのベスト経済書賞(フランクフルト・ブックフェア)を受賞。
――本書より引用
村井章子(むらい あきこ)
翻訳家。上智大学文学部卒業。翻訳書多数。最近の訳書に、『帳簿の世界史』『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(以上文藝春秋)、『トマ・ピケティの新・資本論』『幸福論』『道徳感情論』(共訳)(い以上経BP社)、『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』(筑摩書房)、『ファスト&スロー』(上下、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)など。
――本書より引用

【読書感想】善と悪の経済学 トーマス・セドラチェク ―現代資本主義の問題点を明らかにする一冊

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あらすじ

アフリカでほそぼそと暮らしていたホモ・サピエンスが、食物連鎖の頂点に立ち、文明を築いたのはなぜか。その答えを解く鍵は「虚構」にある。我々が当たり前のように信じている国家や国民、企業や法律、さらには人権や平等といった考えまでもが虚構であり、虚構こそが見知らぬ人同志が協力することを可能にしたのだ。やがて人類は農耕を始めたが、農業革命は狩猟採集社会よりも苛酷な生活を人類に強いた、史上最大の詐欺だった。そして歴史は統一へと向かう。その原動力の一つが、究極の虚構であり、最も効率的な相互信頼の制度である貨幣だった。なぜ我々はこのような世界に生きているのかを読み解く、記念碑的名著!
――本書(上巻)より引用

【読書感想】 サピエンス全史 ユヴァル・ノア・ハラリ

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あらすじ

クロアチアからアイスランドまで、東欧を中心に16の国と地域を巡った渾身のルポルタージュ。最後の魔境、旧共産圏の知られざるサッカー世界を体当たり取材。
史上最凶のフーリガンと恐れられるBBBと往く遠征随行記など東欧を中心に10年以上にわたって取材を続けてきたジャーナリストが、旧共産圏に渦巻くサッカーの熱源を体当たり取材と迫真の写真で解き明かす、渾身のルポルタージュ。
戦争、民族問題で分断され、相容れない国家、民族、サポーターはなぜ、病的なまでにサッカーを愛し続けているのか?否、だからこそ彼らはサッカーにすべてを注ぎ続けるのか?
権力闘争に揺れるクロアチア、オシムが涙したボスニアのW杯初出場、“十字軍"ジョージアの躍進、ウクライナ政変直後の緊迫のダービー、キプロスに横たわる分断の影、ギリシャが挑む「債権者ダービー」など、知られざる世界を巡る壮大な見聞録がここに完成。

【読書感想】 東欧サッカークロニクル 長束恭行

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あらすじ

世界最強と謳われるイスラエルの対外情報機関「モサド」。謎に包まれたその実態をスパイ小説の巨匠が明かす。ホロコーストの首謀者アイヒマンの拉致、テロ組織「黒い九月」への報復、シリアと北朝鮮が密かに設置した核施設の破壊、さらにイランの核開発を阻止するための秘密戦争……。命がけのミッションに挑むエージェントたちの姿を通して国家存亡を左右する暗闘の真実を描くベストセラー・ノンフィクション。解説/小谷賢
――本書より引用

【読書感想】 モサド・ファイル (ハヤカワ文庫NF)

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内容

「憲法は私たちが守らなくてはならないものか」「憲法改正手続を定める憲法九六条は改正できるか」「日本の上空を通過する他国を攻撃するミサイルを撃ち落とすことは合憲か」など、24の問いに答えながら、日本国憲法の思想と骨格を平明に解説。社会問題となっている事象と憲法との関係をときほぐす、市民のための憲法入門。
――本書より引用

読書感想

読みどころ

  • とっつきにくい「憲法」について身近なできごとに絡めてわかりやすい文章で教えてくれる。
  • 憲法の成り立ちをふり返りなぜ人類は人権や福祉といった思想を持つに至ったかがわかる。
  • ニュースで「憲法改正」の話を耳にするようになった昨今、(私のように)ついていけない人にぴったりの入門良書。

本書を読むキッカケ

普段身近に感じることが少なく知る機会もなかなかない「日本国憲法」。

学生時代にしっかりと教わった記憶もなく、何かの機会にかなり努力をしないと一向にわからないモノとして認識していた。

毎度選挙のたびに関心を高めるため何かしらの政治や法学に関する本をめくるのだが、最近聞かれる「憲法改正」とは何が問題なのかがさっぱりであった。

このたび突如行われることとなった衆議院解散総選挙に乗じて少しでも知ろうとあがいてみようと本書を手に取ってみた。

憲法とは空気のようなものである

日本で暮らすすべての人に影響を及ぼしているのだろう「日本国憲法」なるものだが仕事や研究で日常的にかかわる人を除けばその実感は極めて薄いのではなかろうか。

本書の冒頭でなるほどと理解を促してくれる文章があった。

よく、「憲法とは空気のようなものである」と言われます。空気は、生物が生きていく上で欠くことのできない重要なものですが、空気を吸ったり吐いたりすることが私たちの意識にのぼることはほとんどありません。ところが、空気が汚染されたり、酸素濃度が低下したりすると、たちまちその存在を意識せざるをえなくなる。空気に対する無意識の状態が、私たちと空気との最もよい関係を表しているとも言えるでしょう。
――本書より引用

なるほど。

ではニュースなどでその存在が話題にのぼることはつまり、私たちと憲法の「最もよい関係」に何らかの変化が起きていることを意味していることか。

そしてその変化とは何か。

そのためにはまずそもそもを理解する必要があり、本書はその第一歩をやさしく支援してくれる。

身近な例、わかりやすい文章

憲法、法学など政治にかかわることは専門用語や独特な言い回しなどもあり大変とっつきにくい。
本書のよいポイントのひとつは身近なできごとと憲法の関係性を例にあげ、それをわかりやすい文章で解説していることだ。

例として用いられているもの目次からザっと列挙してみる。

  • いじめ
  • 知る権利
  • 女性の再婚
  • 日の丸と君が代
  • 総理大臣の靖国訪問
  • 無修正ポルノ
  • 犯罪者の権利
  • 都市計画による補償
  • 生活保護の支給額

そしてその内容では関連する細かな例がいくつも登場し、その範囲は多岐に渡る。
憲法とはこの国で暮らすわれわれのありとあらゆる部分に影響があるものだと実感させられる。

憲法誕生の歴史的経緯

ふだん空気のような存在でありながらわれわれの生活の隅々にまで関係する憲法とはどのように生まれたのか。

本書では日本の憲法のみならず、そもそも人類が憲法を生み出した経緯を振り返る。

そのことにより、一部のものが国を支配していた時代からやがて市民が力を持つようになり、そして世界中で戦争に明け暮れた人類の経験が、憲法に注ぎ込まれているのだと知ることができる。

世界のすべての国が立憲主義に基づいたものではないが、つまり増えに増えた人間たちがより賢く共存していくために生まれたひとつの知恵が憲法という具合だろうか。

大変有用な憲法の入門書

憲法の話題は中途半端に情報を得ようとすると両極の極論ばかりが目につき一向に理解の助けとはならない。

まずはそもそも憲法とはなにかをつかみ、そして何が起きているのかを理解していくのが良いのではないかと考えている。

日常の暮らしの中でなんとなく理解していることが明文化されており、それらを読むことではっきりと理解につながる本書は良き入門書だった。


著者について

渋谷秀樹
1955年兵庫県加古川市生まれ
1984年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程満期退学
2013年博士(法学)(大阪大学論文博士)
現在ー立教大学大学院法務研究科教授
著書ー『憲法訴訟要件論』(信山社出版)
   『日本国憲法の論じ方』
   『憲法』(以上、有斐閣)ほか
共著ー『リーディングズ現代の憲法』(日本評論社)
   『憲法1 人権』『憲法2 統治』(有斐閣)ほか
――本書より引用

【読書感想】 憲法への招待 新版 渋谷秀樹

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あらすじ

精神医学を根底から問い直す画期的論考!人類は狂気とどう向き合ってきたか。自殺の主因を「うつ病」に求めていいのか。健康ブーム、アンチエイジング医学に潜む危険な兆候とは──〈異常〉と〈正常〉の線引きを歴史的に検証し、人間の精神とはなにかを改めて考える。
――本書より引用

【読書感想】 異常とは何か 小俣和一郎

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あらすじ

最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。世界的名声を得ながら、ストイックなほど厳しい登山を続けている彼が選んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンだった。だが彼は、妻とともにその美しい氷壁に挑み始めたとき、二人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった――。 絶望的状況下、究極の選択。鮮やかに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。
――本書より引用

【読書感想】 凍 沢木耕太郎

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あらすじ

私たちを地球につなぎ止めている重力は、宇宙を支配する力でもある。重力の強さが少しでも違ったら、星も生命も生まれなかった。「弱い」「消せる」「どんなものにも等しく働く」など不思議な性質があり、まだその働きが解明されていない重力。重力の謎は、宇宙そのものの謎と深くつながっている。いま重力研究は、ニュートン、アインシュタインに続き、第三の黄金期を迎えている。時間と空間が伸び縮みする相対論の世界から、ホーキングを経て、宇宙は一〇次元だと考える超弦理論へ。重力をめぐる冒険の物語。
――本書より引用

【読書感想】 重力とは何か 大栗博司

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あらすじ

大好きな山で仕事ができる、ただそれだけの理由でヘリコプター会社に入った篠原秋彦は、山小屋への物資輸送のかたわら、空からの遭勤救助法の確立を目指す。ひとりでも多くの人の命を救いたい。そのために山を研究し、私生活を犠牲にして現場に飛び込んでゆく。そのすさまじいまでの救助の実態を、山岳遭勤ルポの第一人者、羽根田治が真実に迫る筆力で紹介する。
――本書より引用

【読書感想】 空飛ぶ山岳救助隊 羽根田治

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あらすじ

学生・社会運動の嵐が吹き荒れた一九六九年の五月十三日、超満員となった東大教養学部で、三島由紀夫と全共闘の討論会が開催された! 自我と肉体、暴力の是非、時間の連続と非連続、政治と文学、観念と現実における美……。互いの存在理由を巡って、激しく、真摯に議論を闘わせる両者。討論後に緊急出版されるやたちまちベストセラーとなり、いまだ”伝説の討論”として語り継がれる貴重なドキュメント、三十四年ぶりの復活!
――本書より引用

【読書感想】 美と共同体と東大闘争 三島由紀夫・東大全共闘

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あらすじ

「牛方節」「斎太郎節」「新相馬節」……。土地に生まれて根づいた唄に、人々はどんな思いを込めてきたのか。時代を経て人々に口ずさまれる中で、唄はどのような変容をとげてきたのか。詩人が、津軽三味線の二代目高橋竹山とともに、東日本大震災の直後に被災地の村々を行脚した稀有な旅の記録。

【読書感想】 東北を聴く 民謡の原点を訪ねて 佐々木幹郎

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アメリカの巨大軍事産業 装丁

概要

戦争、紛争、そしてテロといった武器を用いた争いは止むことなく世界各地で行われている。しかし、そこで使われる銃や兵器は誰が作り、持ち込んだものなのか。

アメリカの30兆円にものぼる国防費を背景に、軍需産業は国家と固く結びつきマーケットを世界へと広げている。

そのルーツは建国時代までさかのぼり、現在まで姿形を変えながら拡大を続けたアメリカの軍需産業を詳細に分析した一冊。

※数字は出版時2001年時事ドットコム:【図解・国際】米国防予算の推移

【読書感想】 アメリカの巨大軍需産業 広瀬隆

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ヤクザマネー 装丁

概要

2007年11月11日にNHKで放送された「ヤクザマネー~社会を蝕(むしば)む闇の資金~」の取材班による取材記録。

政府が進めた金融規制緩和により、投資マネーが膨れ上がり、新規上場を目指すベンチャー企業がいくつも登場する。

そこには大量の資金を供給するヤクザと、それを高度な金融知識で運用する元金融マンたちの姿があった。

【読書感想】 ヤクザマネー NHK「ヤクザマネー」取材班

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文章の書き方 装丁

概要

「テキストライティングのハック本」、ではない。

著者は「文は心である」ことを何度も強調し、多くの名文を紹介しながら生き方、日々の振る舞いを丁寧に語る。

明日からの心構えを正してくれる一冊。

【読書感想】 文章の書き方 辰濃和男

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陪審裁判を考える 装丁

概要

日本でも、昭和初期に15年間施行されたことがあるとはいえ、陪審裁判への不安や抵抗感は、未だ根強いといわざるを得ない。しかし、いまや、市民の司法参加という観点から、是非論を超えた陪審制度の検討が必要ではないだろうか。本書は日本の現行裁判制度の問題点を探りつつ、アメリカの陪審裁判の実際と比較し、さらに、かつて日本の陪審法がなぜ定着できなかったのかを、具体的な資料によって跡づけようとするものである。
――本書より引用

【読書感想】 陪審裁判を考える―法廷にみる日米文化比較 丸田隆

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少年法 装丁

内容

少年犯罪は悪化しているのか。厳罰主義は本当に有効なのか。本書は、立法の基本理念や運用手続きの実際を解説し、改正問題の論点など少年法の将来を展望するものである。
――本書より引用

【読書感想】 少年法―基本理念から改正問題まで 澤登俊雄

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皇室制度 装丁

内容

天皇と皇室の制度は明治期にどのように「創出」され、どのように展開・変容して、現代にいたったのか。明治憲法と皇室典範を中核とする法体系の成立事情と運用の実態を追い、民間の天皇論や国体論、皇室財産論議、戦後皇室制度の国会審議など、さまざまな興味深い論点を提示していく。気鋭の歴史家が日本近現代史の核心に挑む意欲作。
――本書より引用

【読書感想】 皇室制度―明治から戦後まで 鈴木正幸

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屠場 装丁

内容

筑豊やチェルノブイリの記録を発信してきた本橋成一が、故なき職業差別と身分差別に抗いながら、大阪・松原の屠場でいのちと向き合う人びとを追った、渾身のドキュメント。
――本書より引用

【読書感想】 屠場 本橋成一 ~屠殺場というリアルを通じて見るものに問いかける写真集