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『受精』 帚木蓬生 ~先端医療が生命に及ぼす問題~【あらすじ・感想】

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『受精』あらすじ

最愛のパートナーを交通事故で失った主人公の舞子。二人の思い出がある寺を再訪し、そこで出会ったドイツ人僧侶は彼女に言う「あの人の子どもがほしくないですか?」舞子は最先端の医療環境を揃えたブラジル、サルバドールの病院へ。そこには世界中から舞子と同じ境遇の女性が、希望をもとめ集まっていた。しかし、そこは半世紀越しの忌まわしき陰謀が渦巻く場所であった。

読書感想

本作と、前に読んだ続編「受命」は、かなり大掛かりなストーリーだ。帚木作品の良さは、ヒューマンストーリーが中心にあり、サスペンス要素はあくまで脇役としてバランスしている部分と感じている。

しかし、この連作はストーリーが大きい割にやや強引で、せっかくの繊細な表現が霞んでいるのだ。

帚木作品でこの2つだけ角川文庫、出版社による影響か?

本作はいくつかの大きな医療問題を提示している。

主なひとつは遺伝子検査。そして冷凍保存した精子利用だ。

遺伝子検査は未来の病を予見する一方で新たな問題を生じる可能性がある。

ガンになったら保険がおりる。

しかし将来なりうる病巣をあらかじめ取り除く手術に保険は適用されるか、否か。

また、企業の採用において、従業員が病を患うと生産性が落ち、企業の保険負担がかさむため、採用前に遺伝子検査を行うようになるとどうなるか。(日本の保険料は国だが、欧米では企業保険が多い)

精子の冷凍保存については、これは本作の核心に触れてしまう。

曖昧に記すと、特定の遺伝子をばらまくことに関連する。

物語ではこれらを題材に、「命」を医療という技術革新によりコントロールし始めた人類への警告を行っている。

しかし、ややも強引な仕掛けにより、私はうまく飲み込むことができなかった。

ひとつ大きく印象に残ったのは、主人公と同じくパートナーを失った女性の回想だ。

彼女は、パートナーとのセックスで、自身は球形になると表現している。

この表現は、本作の舞台サルバドールの海辺で、ウミガメが産卵を行うシーンに結びついた。

きっとその球形は、命をやさしく包んで育む卵の形なのだろうと想像した。

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