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『You Don't Know Me』の概要

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Photo by:BBC Courtroom

英国Londonの「法廷」が主な舞台。

主人公は車のセールスマンである青年。

法廷における立場は「被告人」。

理由は後述するが、彼は「South London」で暮らす「黒人」であることを付け加えておく。

4話完結の短いドラマだが一話一話が濃くて重たい。

ドラマは検察による物証陳述でドラマは幕を開ける。

列挙された証拠はいずれも「被告が被害者を拳銃で殺害した事実」を十分に裏付ける内容だ。

これは主人公が終身刑の審判を受けるまでの物語かと思われる。

だがその安易な予想は被告側の最終弁論で鮮やかに打ち破られる。

被告は弁護士を解雇しており自ら証言台に立つ。

彼の主張は「無罪」。

そして、「証拠というものは検察にとってすべてであるが、証拠だけでは真実を知ることはできない」と指摘する。

ここから長い長い最終弁論が始まる。

このドラマは法廷における彼の陳述を背景に、その時々の状況が映像で映し出される構成となっている。

そして視聴する私たちは、証拠は真実を裏付けるものとは限らない現実を突きつけられる。

この事件は人間関係やコトの次第が複雑に入り組んでいる。

ともすれば作為あるいは思考実験のような側面が見え隠れする。

だがしかし、演者たちの見事な演技、配慮の効いた演出がリアリティを最後まで維持してくれる。

絶望的とも言える物証の裏に隠された背景が検察側の主張とは異なる形で一つ一つ明らかにされていく。

非常にスリリング、とにかく見応えがある。

グイグイと引き込まれる展開が続くため、一話60分がアッという間に過ぎ去る。

概要や主な見どころは以上。

予備知識なくとにかく視聴してみることをお勧めしたい。

以降は補足説明と感想を記す。

ここからはドラマのネタバレを含む内容となるので悪しからず。

ドラマの舞台「London」に関する補足

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Photo by : ロンドン・アイ - HowTravel

普通に暮らしている若者が、こんな複雑な事件に巻き込まれるものなのか?

Londonの警察は無能なの?なぜギャングを放置してるの?

Londonは私がかつて暮らしていた町でもあるので語れる範囲で補足説明を試みたい。

また「South London」「黒人」というワードを敢えて入れた理由についても触れる。

Londonのエリアについて

ドラマ内で「North」「South」というワードが登場する。

Londonの南側は古くから労働階級の人々のエリアであり比較的黒人が多く住んでいる。

この South - North の大まかな分岐線はテムズ河。

ステレオタイプな表現をすると、つまり主人公たちが暮らすSouth Londonは貧困率が高く、ギャングのような人々が多く暮らしているエリアとなる。

犯罪について。

私は現在東京で暮らしている。

数字ではなく印象ベースの話しで申し訳ないが、治安に関してはLondonで暮らしてい頃と比較すると俄然いまの東京の方が安心感がある。

かつて階級社会であった日本は戦後、一度リセットがなされたものの、再び経済格差が広がりつつある。

だが英国は一貫して格差・階級社会の大先輩。

貧する者がいるのは当然のこと、その階層における事件やトラブルはあたかも自然現象であるかの如く放置されている。

何が言いたいかと言うと、South Londonで暮らしている黒人の男性がギャングたちのトラブルに巻き込まれて命が危ないと警察に相談したとして果たして真剣に取り合ってもらえるのだろうか?

こういった背景を想像してみると、このドラマにおける個々のエピソードは起きうる事実として捉えることができるのではないだろうか。

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『You Don't Know Me』の感想

印象的なシーン

Council Flats

主人公とカイラの最初のデート(カルボナーラをふるまう)のあと、彼女を自宅まで送り届けるシーン。

カイラの住まいは「Council flats(以降、公営団地とする)」だった。

彼女は経済的に苦しいのだと察してしまった。

東京では「タワマン」と称し富の象徴である高層建物。

だがLondon郊外においては逆である。

公営団地が立ち並ぶエリアは空気が違う。

映画『トレインスポッティング』にも登場するアノ感じ。

貧しさと犯罪をイコールで結ぶことは間違っているとは思う。

だがどうしてもトラブルが起きやすい環境であることは拭い難い事実であろう。

社会でまっとうに生きる立場を獲得できた主人公とは生きてきた環境の違いが彼女との間に存在することを象徴づけるシーンだった。

カイラの言葉

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Photo by : You Don't Know Me - Media Centre

車にいたずらしている子供を主人公が𠮟りに出ようとしたシーン。

カイラは「彼にもきっと事情がある」と止めた。

そして、叱りに行くなら別れるとまで言い放つ。

そう、事情があるのだ。

「トラブルや犯罪を起こすようなヤツらは自業自得、自己責任」、と言える方はとても幸せな環境で生きている証であり、それがこの先も続くことを願う。

一方、ドラッグを売ったり暴力に身を置く者たちは、生まれたときからそうなりたかったのだろうか?

ハイハイから立ち上がれるようになり、言葉を覚え話し始めた頃からそうなりなかったのか?

カイラは、それぞれが抱える避けがたい現実というものが、この社会には存在することを主人公に分かってもらいたかったのだ。

主人公の母「Abebi」

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Photo by : You Don't Know Me - Media Centre

彼女が登場するエピソードはいずれも強く印象深い。

主人公の同級生カートをイジメから助け、カイラを家族同様受け入れ、温かい食事をふるまう。

彼女が声をかけ手を取り合って祈りを捧げるシーンは、彼女の人生観や家族への愛が存分に表現される場面だ。

カイラは、主人公が持つ優しさの理由は、一日も欠かすことなく愛を受けてきたからだと指摘する。

その愛情を注いだ人物こそ、母「Abebi」である。

人類が今日まで続いてこれたのは、名のある英雄や偉人などのおかげなどではない。

きっと彼女のような人たちがいたからこそだと私は思っている。

ドラマを観終えて

このドラマは、「証拠による立証の限界」「法と倫理のジレンマ」「経済格差による社会構造問題」などいくつかのテーマを描いた作品だと思う。

事件に巻き込まれた主人公、彼の家族、カイラは法の下では加害者である。

そして、殺された売人ジャミル、彼のボス、カムデンで主人公に撃たれたギャングなど彼らが行っていることも同様、社会における加害行為であろう。

あなたはどの立ち位置で見るのか、この作品はそれを問うているのだと私は感じた。

すべてを観終えたとき、私はただただ悲しかった。

このドラマは「悲劇」だと感じた。

主人公たちやギャングたちみなみなが可哀そうでならなかった。

このドラマの作り手の根底に深い怒りと悲しみを感じるのだ。

そして温かい部屋でこの作品を観ている私はたまたま運がよかったのだとも。

『You Don't Know Me』を面白いと思ったらぜひこちらも

『ある告白の解剖』 Netflixドラマ

こちらも先日観た作品で、『You Don't Know Me』と同様に法廷を主舞台とした作品。

かつて不倫関係にあった二人の別離後に起きた性行為がはたしてレイプであるかを問う裁判である。

性行為における同意をの有無を立証する難しさ、 政治家として父として優れた人物とされた男の正体、物語の背景にある検察官のロングストーリーなど見どころ満載の法廷劇。

おすすめです。

『テロ』 書籍・戯曲

打って変わってこちらは小説。しかも、戯曲の台本という体裁のめずらしい小説作品。

著者はドイツの現役刑事弁護士であり小説家でもある「フェルディナント・フォン・シーラッハ」。

裁判劇である。

対象となる事件はドイツ国内で起きたある架空のテロ事件について。

ハイジャックテロにより164人の乗客を乗せた旅客機が7万人の観客がいるスタジアムに突っ込む。

追跡していた少佐は指令に反し旅客機を撃墜した。

独断で164人より、7万人の命を優先したのだ。

人間の尊厳に重きを置くが故に生じる矛盾を突くのが現代のテロである。

人間の尊厳をもっとも尊重すべきとする我々はどうすればよいか。

『You Don't Know Me』の結末を観て、真っ先に思い浮かんだのがこの小説だった。

同様に結末が「有罪」「無罪」の2パターン用意されている。

つまり選択は私たちに問われている。

さまざまな国で舞台化され観客に評決を問うなど興味深い試みがなされたようで、こちらの記事に情報を掲載しているので興味があったらぜひ一読を。

『テロ』 フェルディナント・フォン・シーラッハ 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

個人的にいま最も熱いのが「フェルディナント・フォン・シーラッハ」である。いや、これまでの読書歴においてナンバーワンであるといっても過言ではない。全作を読破しよう!とデビュー作から読み始め、本作『テロ』

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さいごに

映画ドラマ小説問わず、個人的に最も惹かれるのは法廷ミステリである。

社会を構成し生き延びてきた私たち人類が、社会の規律を維持する装置として発明した「裁判」。

「人を裁く」という神の領域に足を踏み入れるにあたり、私たちは法・倫理・哲学・医学・科学などありとあらゆる知見を持ってのぞむ。

法廷は人知の集大成の場であると認識している。

そのような場で繰り広げられる出来事は軽犯罪であろうと大事件であろうと興味深い。

加害者としてか被害者としてかは分からないが社会に身を置くものである以上、私を含め誰もが当事者の可能性がある。

本ドラマは観る側に多くを問いかける内容であり非常に考えさせられる作品だった。

拙い個人的な文章を最後まで読んでいただき深く感謝申し上げたい。

またおもしろい法廷ミステリ作品などをコメント、Twitter等で教えていただけると泣いて喜びます。

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Photo by:Craig Whitehead on Unsplash

長い前フリ

新型コロナウイルスによるパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻と立て続けに世界を揺るがす出来事が起こっている。

世界が大きく動いているとき、一般人の私にできることは何であるか。

連日の報道や世論に押し流されてしまわぬよう、何とか自分なりの考えを持ちたいという願望がある。

知に勝るものはないはずと信じ、なにかあれば私は新書を読むようにしている。

コロナ禍においては、「そもそもウイルスとは何か?」から始めた。

人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 neputaさんの感想 - 読書メーター

人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差。WHOって何?過去の感染症と世界はどう向き合ってきたのか? 等々まったくの無知であることに気づき本書を手に取った。 内容は、中世におけるペスト・コレラから、

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その流れで偶然、『紛争でしたら八田まで』というマンガ作品のウクライナ編が無料公開されるというニュースを目にする。

講談社「紛争でしたら八田まで」のウクライナ編を無料公開 リスク管理の専門家が監修する地政学まんが - ITmedia NEWS

講談社は「Dモーニング」で連載している「紛争でしたら八田まで」のウクライナ編全6話を無料公開した。

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紛争でしたら八田まで|モーニング公式サイト - 講談社の青年漫画誌検索

海外のことがちょっと楽しくなる新連載!民族、言語、思想。違えばやっぱり、事件は起きる。住む場所変われば、起きる事件も、もちろん変化!それを眼鏡美人・八田百合、チセイ(と荒技)で解決!? 荒み疲れ果

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この作品は「地政学」がベースとなっており、川口貴久氏という方が監修をされている。

地政学とは - コトバンク

日本大百科全書(ニッポニカ) - 地政学の用語解説 - スウェーデンの政治学者チェレーンRudolf Kjellén(1864―1922)によって第一次世界大戦直前につくられた用語で、政治地理学が世界

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主席研究員/プリンシパルリサーチャー 川口 貴久(KAWAGUCHI Takahisa) | コンサルタント紹介 | 東京海上ディーアール株式会社

東京海上ディーアール株式会社のコンサルタント主席研究員/プリンシパルリサーチャー 川口 貴久(KAWAGUCHI Takahisa)の紹介ページです。製品安全やビジネスリスクをはじめとする様々な業界に

第9巻の巻末で、その川口さんが「スパイ映画」5作品をおすすめしていた。

川口氏信者に片足を突っ込んでいる私は迷うことなく「5夜連続スパイ映画視聴祭を敢行した。

いずれも見ごたえがあり考えさせられることも多かった。

これは記しておかざるを得ない。

以上が本記事の主旨であり、長い前フリ、以下本題。

視聴環境

私はAmazon PrimeとNetflixで映像作品を視聴可能である。

他のサービスで視聴可能であるかは未調査であるので悪しからず。

これを書いている2022年5月18日時点では、5作中4作が通常サービスの範囲で見ることができた。

1作品のみレンタルのため追加で支出した。

作品名 視聴環境
ゼロ・ダーク・サーティ Amazon Prime
シリアナ Amazon Prime
工作 黒金星と呼ばれた男 Netflix
フェア・ゲーム Amazon Prime (レンタル407円)
誰よりも狙われた男 Amazon Prime

スパイ映画5作品のあらすじと感想

まず冒頭に5作品を通じての所感を記しておきたい。

「スパイ映画」というと、「ダブルオーセブン」や「キングスマン」のような超エンタメ作品も含まれるのであろう。

だが地政学専門家によるおすすめ作品だけあって、エンタメ要素は極めて薄い。

音楽、演出、アクションなどは無に等しい。

淡々としたドキュメンタリータッチの映像が永遠と続く。しかも長い。

「知られることのない諜報活動のドキュメンタリー」とは矛盾した表現だが、印象としてそうなのだから仕方がない。

しかし、いずれの作品も深く心に刺さる作品ばかり。

演出を排する演出に成功している作品群とも言える。

共通して改めて思うのは、「人の数だけ正義や正しさの形は異なる」ということ。

そして、「過去も今も恐らくこの先も人間社会は混沌(カオス)である」ということ。

良いか悪いか、という判断も極めて個人的な思いに過ぎない。

それをイヤというほど思い知らされる。

以下、地味で、長く、重たい5作品について個別の感想を記す。

ゼロ・ダーク・サーティ

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Photo by:ゼロ・ダーク・サーティ の映画情報 - Yahoo!映画

あらすじ

2011年5月2日に実行された、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン捕縛・暗殺作戦の裏側を、「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督が映画化。テロリストの追跡を専門とするCIAの女性分析官マヤを中心に、作戦に携わった人々の苦悩や使命感、執念を描き出していく。9・11テロ後、CIAは巨額の予算をつぎ込みビンラディンを追うが、何の手がかりも得られずにいた。そんな中、CIAのパキスタン支局に若く優秀な女性分析官のマヤが派遣される。マヤはやがて、ビンラディンに繋がると思われるアブ・アフメドという男の存在をつかむが……。脚本は「ハート・ロッカー」のマーク・ボール。主人公マヤを演じるのは、「ヘルプ 心がつなぐストーリー」「ツリー・オブ・ライフ」のジェシカ・チャステイン。
2012年製作/158分/PG12/アメリカ
原題:Zero Dark Thirty
配給:ギャガ

感想

空挺部隊による作戦シーンが唯一派手だが、それ以外は淡々と情報収集を行う諜報活動の裏側を描いている。

米国側の視点で、9.11の復讐が果たされるまでを描くストーリーである。

だが、同じ国家の元で活動するCIA局員の間にも微妙な目的や温度の違いがあり興味深い。

過去に、米軍が9.11の首謀者であるオサマ・ビンラディンを殺害したとのニュースを目にした曖昧な記憶がある。

本作により、それは9.11から10年という月日を経て果たされたものであり、実際に実在したとされる一人のCIA分析官の執念が実を結んだものであったことが分かる。

米国側の視点からすると「勝利の物語」であるかもしれないが、いったい誰の勝利なのか、誰のための戦いであったのか、など複雑な思いに駆られる。


シリアナ

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Photo by:シリアナ の映画情報 - Yahoo!映画

あらすじ

「トラフィック」でアカデミー賞脚本賞を受賞したスティーブン・ギャガンが、全米ベストセラーとなったノンフィクション「CIAはなにをしていた?」(新潮社刊)を元に映画化した社会派群像劇。CIA工作員、アラブの王族、米国の石油企業、イスラム過激派テロリストら石油利権の周辺にうごめく人間たちの運命をドキュメンタリータッチで描く。ウィリアム・ハートやクリス・クーパーといったアカデミー賞俳優が脇を固めるほか、アマンダ・ピート、クリストファー・プラマーらが共演。
2005年製作/128分/アメリカ
原題:Syriana
配給:ワーナー・ブラザース映画

感想

タイトルの「シリアナ」は中東にある架空の国。

実のところ「サウジアラビア」。

実に地味でドキュメンタリー濃度の高い作品である。

また、石油依存を脱し近代化を図ろうとする中東国家の勢いを、自由の国アメリカが押しとどめようとする構図の残酷さは見どころのひとつであろう。

しかし、とにかく注目すべきプレイヤーが多い。

  • CIA工作員
  • シリアナ王国の後継者を争う兄と弟
  • 兄に肩入れする米国の経済アナリスト
  • 弟を抱き込み石油利権を維持したい米国オイルカンパニー
  • オイルカンパニーと政府の間で暗躍する弁護士
  • 石油利権を巡る国家間の争いに巻き込まれ失業してしまうシリアナの労働者

物語を理解するヒントは彼らの会話、画面に映った事実のみ。

しかしこれらを丹念に追ったとしても理解は難しいだろう。

なぜなら、描かれている出来事それ自体がとんでもなく複雑であるからだ。

人間の営みとして価値の大きなものには多くが群がり、コトはおのずと複雑となる。

対象は石油、21世紀においてなお巨額な金を動かす資源である。

できることなら原作を、最低限Wikiなどで登場人物と大筋をおさらいしておくことをお勧めする。

シリアナ - Wikipedia

今回観た5作品の中でもっとも骨が折れる作品だった。

しかし、単純化した言説や耳障りのよい話しなどでこの世界が簡単に理解できるわけがない。

あらためて思い知る良い機会となること受け合いの作品である。


工作 黒金星と呼ばれた男

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Photo by:工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 の映画情報 - Yahoo!映画

あらすじ

北朝鮮の核開発をめぐり緊迫する1990年代の朝鮮半島を舞台に、北への潜入を命じられた韓国のスパイの命を懸けた工作活動を描き、韓国で数々の映画賞を受賞したサスペンスドラマ。92年、北朝鮮の核開発により緊張状態が高まるなか、軍人だったパク・ソギョンは核開発の実態を探るため、「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」というコードネームの工作員として、北朝鮮に潜入する。事業家に扮したパクは、慎重な工作活動によって北朝鮮の対外交渉を一手に握るリ所長の信頼を得ることに成功し、最高権力者である金正日と会うチャンスもつかむ。しかし97年、韓国の大統領選挙をめぐる祖国と北朝鮮の裏取引によって、自分が命を懸けた工作活動が無になることを知ったパクは、激しく苦悩する。監督は「悪いやつら」のユン・ジョンビン、主演は「哭声 コクソン」「アシュラ」のファン・ジョンミン。
2018年製作/137分/G/韓国
原題:The Spy Gone North
配給:ツイン

感想

5作品のなかでは最も演出が効いたエンタメ作品といえるだろう。

ストーリー展開も見事で予備知識があまり無くても楽しめる作品。

ただやはり、より深く作品を満喫するには朝鮮半島の近代史あたりはおさらいしておくことをお勧めする。

朝鮮の歴史 - Wikipedia

また他4作品とは違った特徴が本作にはいくつかある。

ひとつは同じ言語を共有するかつては同じ国であった民族同士が対立関係にあること。

これはもどかしさと悲しさが入り混じる非常に複雑な感情をもたらす。

もうひとつは諜報の世界の話ではあるが、人間関係のドラマが前面に描かれていること。

ともすると人間味が薄い世界に感じられるリアルな諜報活動の世界において、この作品は血が通った人間同士の世界であることを改めて教えてくれる。

敵対する者同士、直接言葉にして伝え合うことができないもどかしさと、それでも通じ合う思いに胸が熱くなる。


フェア・ゲーム

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Photo by:フェア・ゲーム の映画情報 - Yahoo!映画

あらすじ

03年3月に開始されたイラク戦争のきっかけとなった大量破壊兵器の存在。米外交官ジョセフ・ウィルソンはその存在そのものを否定するレポートを発表したが、米政府はそれを無視。さらに報復としてウィルソンの妻バレリー・プレイムが現役のCIAのエージェントであることマスコミに暴露する……。イラク戦争開戦をめぐり実際に起こった「プレイム事件」を「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマン監督が完全映画化した実録サスペンス。出演は、バレリーにナオミ・ワッツ、ウィルソンにショーン・ペン。
2010年製作/108分/G/アメリカ
原題:Fair Game
配給:ファントム・フィルム

感想

1995年にも同じタイトルの作品があるが、これは2010年に公開されたもの。

本作が描く2003年の米国によるイラク戦争は、突如、半ば強引に米国がイラクに仕掛けた戦争として記憶している。

存在しない脅威をあると言い、平和のためだと他国に侵略する。

まさに現在起きているロシアによるウクライナ侵攻と同じ印象がある。

だが、独裁者による独断ではなく、民主主義国家の代表格ともいえる米国でなぜそのような事が起きたのかと言われると何も知らずにいた。

本作ではその辺りの背景となるCIAと政府の熾烈なやり取りから始まり、この作品を生む要因ともなった政府によるCIA工作員への報復などが中心に描かれている。

また、CIAというよりかは米国という国は、ほんとうに他国民を人間として扱わない国という個人的な印象がより深まる作品でもある。

諜報活動には対処国および周辺の関連国の一般市民も数多く巻き込まれ犠牲になる。

その辺りも含め、現在ロシアによる侵略戦争が行われている状況下でこの作品を観るとより一層深く刺さるものがある。

戦時下において、人は「殺す側」と「殺す側」の二手に、強制的に分けられてしまう。

だからこそ、戦争を始めてはならないのだと改めて強く思うのだ。


誰よりも狙われた男

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Photo by:誰よりも狙われた男 の映画情報 - Yahoo!映画

あらすじ

スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの同名小説を「コントロール」のアントン・コービン監督が映画化。2014年2月に急逝した名優フィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作となった。ドイツ、ハンブルクの諜報機関でテロ対策チームを率いるバッハマンは、密入国した青年イッサに目をつける。イスラム過激派として国際指名手配されているイッサは、人権団体の女性弁護士アナベルを仲介してイギリス人銀行家ブルーと接触。ブルーが経営する銀行に、とある秘密口座が存在しているという。ドイツ諜報界やCIAがイッサ逮捕に向けて動きだすなか、バッハマンはイッサをわざと泳がせることで、テロへの資金援助に関わる大物を狙うが……。ホフマンがバッハマンを演じるほか、共演にも「きみに読む物語」のレイチェル・マクアダムス、「グランド・ブダペスト・ホテル」のウィレム・デフォー、「ラッシュ プライドと友情」のダニエル・ブリュールら実力派キャストが集結。
2013年製作/122分/G/アメリカ・イギリス・ドイツ合作
原題:A Most Wanted Man
配給:プレシディオ

感想

9.11テロの作戦がドイツのハンブルグで立てられていたとは知らなかった。

そのため9.11以降、ハンブルグは諜報戦が活発化する。

その中でドイツ・ハンブルグの諜報機関とCIAによる、とある熾烈な諜報戦に絞って描かれたのが本作品である。

色々思うことや感想はとめどなく溢れるほどある作品なのだが、あまり書かずにおく。

とにかく、今回観た5作品のなかで最も良い作品であったことのみを書き記しておきたい。

視聴後の虚脱感は耐え難いほどであるが、個人的に強く強く強くお勧めしたい作品だ。

あらすじで興味を持った方はぜひ観てみてほしい。

そして、改めてCIAはクソだと思う。


まとめ

人類は相手の裏をとって物事を進める営みを何千年も続けてきたし、きっとこの先も続けて行くのだろう。

そしてこの諜報活動に凝縮されるような行動は、何も人間のみにあらず、自然界にも数多くある生物が持ち得る本能的なものなのだろう。

ただ、そこで犠牲となる数多くの人生とはいったい何なのであろうかと、一市民の私などは途方に暮れてしまう。

かなり充実した五夜だったが、現実と裏ばかりの作品だったがゆえ少々鬱気味である。

フィクション、エンタメがひどく恋しくなる副作用付きの試みだった。

もしどれかの作品を観た方や、同じく『紛争でしたら八田まで』をキッカケに観たなどの方がいらしたら、ぜひ何かコメントやTwitterなどで教えていただけると嬉しい限り。

最後までお読みいただき感謝感激。

それではみなさま良き映画ライフを。

『紛争でしたら八田まで』の監修:川口貴久氏おすすめのスパイ映画5作品を観た

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本記事には「ユービック」のネタバレが含まれています。

あらすじ

1992年、予知能力者狩りをおこなうべく、ジョー・チップら半予知能力者が月面に結集した。だが予知能力者側の爆弾で、メンバーの半数が失われる。これを契機に、恐るべき時間退行現象が地球にもたらされた。あらゆるものが退化していく世界で、それを矯正する特効薬は唯一ユービックのみ。その存在をチップに教えたのは、死の瞬間を引き延ばされている半死者エラだった……鬼才ディックがサスペンスフルに描いた傑作長篇
――本書より引用

読書感想

以前読んだ『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に続き、2つ目の「フィリップ・K・ディック」作品。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 フィリップ・K・ディック ~ブレードランナー原作~ 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』のあらすじ:第3次世界大戦(最終戦争と呼ばれている) が終わった後、地球は放射能灰に汚染され死の星となり、人間の多くは植民惑星へと移住した。生物は希少で価値が高く、

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設定を理解し入り込むのに少々難があったが、扉を開いたその瞬間からフィリップ・K・ディックの世界が広がっていた。

そこは少し先の未来であり、テクノロジーの進化と退廃が渾然一体となったいわゆる「サイバーパンク」とも呼ばれるあの世界観だ。

サイバーパンクとは - コトバンク

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 - サイバーパンクの用語解説 - サイエンス・フィクション (SF ) の一分野。人間性が失われたハイテク未来社会のなか,類型的な英雄像とは異なるあり方で既成文化

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本作品は1969年に出版された「フィリップ・K・ディック」によるSF小説である。

舞台は出版当時からすると近未来であった1992年の米国、超能力と進化した科学技術が共に存在する世界であり、それらは対立している。

超能力による犯罪から市民を守る警備会社の経営者「グレン・ランシター」、従業員であり技術者の「ジョー・チップ」、そしてランシターの妻「エラ」が主要人物。

彼らは「不活性者」と呼ばれる超能力者の能力に対抗する力を持つ者たちを率い、超能力サイドと対峙する。

ちなみに超能力サイドのボスは「レイ・ホリス」という人物で、彼はランシターたちを月におびき寄せ爆弾による殺害を試みる。

そしてこの事件を起点に、身の回りのモノ、モノだけでなく人までもが1940年に向かって退行するという奇妙な現象が発生する。

生き残りをかけてジョーとランシターは果たしてこの奇怪な現象を解決できるのか、そして「Ubik(ユービック)」とは何なのか、この辺りが読みどころであろうか。

みなさん、在庫一掃セールの時期となりました。当社では、無音、電動のユービック全車を、こんなに大幅値引きです。そうです、定価表はこの際うっちゃることにしました。そして――忘れないでください。当展示場にあるユービックはすべて、取り扱い上の注意を守って使用された車ばかりです。
――本書より引用

各章はすべてこのような広告から始まる。

上記は第1章のユービック広告を引用したもので、「ユービックとは車なのか?」と思いきや第2章の広告ではユービックとはインスタントコーヒーであり、その後もユービックは様々な種類の商品として登場する。

そして広告の最後は必ず取り扱いの注意で締めくくられている。

ユービックとは何であるか?

先に本作品の見どころとして挙げた、「過去への退行」を阻止することができるか?、これに対抗するための鍵が「ユービック」なのである。

そして、本作品には複数層の現実世界が設定としてしつらえてある。

複数層の現実とはおかしな言葉だが、いわゆる存在する者としての「生者」のほかに「半生者」が存在する。

「半生者」の世界は肉体を離れた意識のみによる世界であり、「生者」と「半生者」は装置によってコミュニケ―ションが可能である。

この設定と著者の描写の妙により、読んでいる側は目の前にある世界が何であるか、どこであるのかが安定せず非常に翻弄される。

本作の肝である「Ubik(ユービック)」という言葉は現実に存在しないとのこと。

近いものが「ubique」というラテン語で、その意味は「あらゆる場所」である。

各章のはじまりは、ユービックが「あらゆるモノ」の代替存在として紹介される広告が登場すると前述した。

「ユービック」に近い語として「あらゆる場所」を意味する言葉が存在する。

そして、万物が退行してしまう現象を解決する鍵として「ユービック」が用いられる。

こうやって眺めてみると「ユービック」とは「神」、あるいは「宇宙の真理」のような概念を指すものに感じる。

思考があちこちへと駆け巡る稀有な読書体験であった。

種明かしというか解説的なものを読んでみたい気もするが、もう少し自由に思考を巡らせてみようと思う。

著者・訳者について

フィリップ・K・ディック
アメリカの作家。1928年生まれ。1952年に短編作家として出発し、その後長編を矢つぎばやに発表、「現代で最も重要なSF作家の一人」と呼ばれるまでになる。ゆるぎない日常社会への不信、崩壊してゆく現実感覚を一貫して描き続けた。代表作に『ユービック』『火星のタイム・スリップ』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『スキャナー・ダークリー』『ヴァリス』など。1982年歿。
浅倉久志
1930年生、2010年没、1950年大阪外語大学卒、英米文学翻訳家 訳書『タイタンの妖女』ヴォネガット、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』ディック、『輝くもの天より墜ち』ティプトリー・ジュニア(以上早川書房刊)他多数
――本書より引用

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