×

『ルームメイト』 今邑彩 【読書感想・あらすじ】

2016/03/26

目次 [隠す]

記事画像

『ルームメイト』あらすじ

私は彼女の事を何も知らなかったのか……?
大学へ通うために上京してきた春海は、京都からきた麗子と出逢う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううち、彼女の二重、三重生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えていた。茫然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが……。
――本書より引用

読書感想

人物や情景などの描写はとても控えめなもので、「細部を描く」といった文学的要素は極めて希薄である。

凝りに凝ったトリックを読み解いていくだけの作品は退屈であるのだが、この作品においては淡々と綴られる伏線を、ただ淡々と辿っていくのがなぜか心地よい。

「この辺りが怪しい」と思ったのも束の間、玉葱の皮のように終わりなく連なる伏線を追っているうちにいつしか虚像と真実の境が曖昧になる。

主人公と私は実際年齢が近いのだろう。バブル期の終わりに学生として過ごす主人公の目を通して懐かしい町の様子が飛び込んでくる。

こんな楽しみ方もあるのだと嬉しくなりながら、「ビリー・ミリガン」、「多重人格」といったキーワードも、そういえば私もあの頃に触れたものだったと思い出す。

おそらく「ビリー・ミリガン」に触発され書かれた和製の多重人格者にからむミステリ作品はシンプルでありながら単調に陥ることなく楽しめる物語であった。

主人公の先輩である工藤健介は石の写真ばかりを撮る趣味が有り、仏閣や石を祀った信仰への造詣が深く、薀蓄を長々と語るシーンが幾つかあるのだが、これらは伏線とはならないにも関わらず多くの文章を費やしているのが今でも気になって仕方がない。

また、立ち上がる様子を、必ず「みこしをあげる」と描写するのがとても気に入っている。

著者について

今邑彩 いまむら・あや
1955(昭和三〇)年、長野県生まれ。都留文科大学英文科卒。会社勤務を経て、フリーに。一九八九(平成元)年鮎川哲也賞の前身である「鮎川哲也と13の謎』に応募し13番めの椅子を『卍の殺人』で受賞。以降、推理小説を中心にホラーなどを手がける。著書に『i(アイ)』『「裏窓」殺人事件』『そして誰もいなくなる』『少女Aの殺人』『赤いべべ着せよ…』『つきまとわれて』『よもつひらさか』『双頭の蛇』『暗黒祭」『いつもの朝に』『鬼』など。
――本書より引用

「今邑彩」作品の感想記事

『そして誰もいなくなる』 今邑彩 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

そして誰もいなくなる (今邑彩) の感想とあらすじ。 名門女子校天川学園の百周年記念式典に上演された、高等部演劇部による『そして誰もいなくなった』の舞台上で、最初に服毒死する被害者役の生徒が実際に死

blog card

「名作ミステリ作品」の感想記事

『マークスの山』 高村薫 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ 昭和51年南アルプスで播かれた犯罪の種は16年後、東京で連続殺人として開花した―精神に〈暗い山〉を抱える殺人者マークスが跳ぶ。元組員、高級官僚、そしてまた…。謎の凶器で惨殺される被害者。バラ

blog card

『火車』 宮部みゆき 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

火車 (宮部みゆき) のあらすじと感想。 あらすじ 休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子

blog card

『オリエント急行殺人事件』 アガサ・クリスティ 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

オリエント急行殺人事件 (アガサ・クリスティ) のあらすじと感想。あらすじ満員の乗客を乗せた豪華列車、オリエント急行にポアロも乗り合わせた。ところが列車は、深夜、ユーゴの山中で立往生してしまった。

blog card

『教団X』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ 対をなし存在する「2つの集団」。ひとつは「沢渡(さわたり)」という男が教祖として君臨し、都内のマンション一棟に潜むカルト宗教であり、そこには多くの若い男女が集っている。その宗教団体は公安や警

blog card

『その女アレックス』 ピエールルメートル 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

その女アレックス (ピエールルメートル) のあらすじと感想。おまえが死ぬのを見たい――男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが……しかし、ここまでは序

blog card

『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』 スティーグ・ラーソン 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ 月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く記事を発表した。だが名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れた。そんな折り、大企業グループの前会長ヘンリックか

blog card

コメント