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『そこのみにて光輝く』 佐藤泰志 【読書感想・あらすじ】

2016/05/12

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あらすじ

北の夏、海辺の街で男はバラックにすむ女に出会った。二人がひきうけなければならない試練とは――にがさと痛みの彼方に生の輝きをみつめつづけながら生き急いだ作家・佐藤泰志がのこした唯一の長編小説にして代表作。青春の夢と残酷を結晶させた伝説的名作が二〇年をへて甦る。(解説・福間健二)
――本書より引用

読書感想

おそらく舞台は津軽海峡に面した青森の街なのだろう。

山背や根雪、みなを連れて行った湖は十和田湖だろうか。

パチンコ屋で何度も貸してくれと声をかけられるのが面倒だと理由でライターをあげたことが縁で物語が始まる。

主人公の達夫は三十間近にして仕事をやめ、海で泳ぎ、レコードを聴き、パチンコ屋に出入りしていた。

海を隔てたおそらくは北海道の函館だろうか、硬い仕事の夫と暮らす妹とは両親の墓のことで手紙のやり取りがある。

明確に「いつの時代?」かは書かれていないが、なんとなく60年代から70年にかけての話しかと思いながら読みすすめる。

ライターが縁でのちに義理の弟となった拓児、妻となった拓児の姉である千夏、そして彼らの両親。

半径10メートルほどの狭い世界の営みを、飽くことなく心に染み渡らせてくれる文章が最後までつづく。

言葉の端々から、くたびれてはいるが青春の匂いが確かに感じられる。

北の果てのなにもない土地で、決して明るくはないがどんよりとした重さもない。

物語の舞台が知らない土地ではないということも影響しているとは思うが、光のひと筋や、雫の一粒までがありありと目に浮かび、ただただ心地よくその世界に浸っていたいと思わせる、これは文学だ。

どんな作品か、作家であるかの予備知識なしに手に読んでみたが本当に読んでよかったと思える作品だった。

自死によりすでに他界されている方だと読み終えたあとで知り、新作が書かれることはもうないのだと考えているうちに、本作品に漂う不安気な影を思い出した。

ぜひほかの作品も読んでおきたいと強く思う。


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また、この作品は映像化もされていると読後にあれこれ調べているさなかに知った。繊細な筆致がどのように映像化されているのか近いうちに観てみたい。


著者について

佐藤泰志(さとう・やすし)
1949年、北海道・函館生まれ。國學院大學哲学科卒。高校時代より小説を書き始める。81年、「きみの鳥はうたえる」で芥川賞候補となり、以降四度、同賞候補に。89年、『そこのみにて光輝く」で三島賞候補となる。90年、自ら死を選ぶ。他の著書に『海炭市叙景』『黄金の服』『移動動物園』『大きなハードルと小さなハードル』などがある。
――本書より引用

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