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『その女アレックス』 ピエール・ルメートル 【読書感想・あらすじ】

2016/05/30

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あらすじ

おまえが死ぬのを見たい――男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが……しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
――本書より引用

読書感想

※ネタバレを含んでいます。

これまで読んできたミステリやサスペンスといったカテゴリ分けされた、どの作品とも根底の部分で異なる「鮮烈さ」のようのものを感じる作品であった。

第一部

冒頭でタイトルにもなっている女性「アレックス」が登場する。

ヘア・ウィッグで変身できることに驚きそして喜びを感じるアレックスは、コンプレックスを多く抱え看護師として生活する30歳の独身女性である。

そんな彼女が突然襲いかかってきた暴漢により拉致され、体を折り曲げた状態を強いられる大きさの檻に監禁される。

理不尽な暴力に襲われた彼女に対し同情的な思いを抱えながら読み進めていった。

第二部

アレックスは奇跡的に脱出した。

そして彼女は、何というか読んでいていきなりビンタを喰らったような状態に陥るというか、アレックスは人を殺しまくるのだ。しかも被害者を瀕死に追い込み、仕上げに硫酸を口に流しこむという。

そして監禁される前にも既に疑わしき2件の事件が浮かび上がる。

とんだシリアルキラーだ。

第三部

アレックスはスイスへ逃げ出す万全の準備を終え、空港近くのホテルの一室で、もう何が起きても驚かない気持ちになっていたはずだが更に驚かされたのだが、アレックスは、彼女は死ぬ。自殺をする。

そして、なぜ彼女は監禁されたのか、そもそもなぜ硫酸を用いて殺人を繰り返したのか、なぜ自殺をしたのか、その全てにはそうならざるを得ない理由があり、それらがパリ警視庁の刑事たちによる粘り強い捜査で解き明かされていく。

その内容は、これまでのストーリーの展開に振り回され、疲れ果てた脳みそにトドメを刺すような真実だ。

浮かび上がってきたのは手足を縛られ他者の欲望によってされるがままに操られてきたアレックスの過去である。その身動きが取れない彼女の人生が、本作のカバー写真の女性と重なった。

カミーユ・ヴェルーヴェン警部という男

アレックスという女性に登場人物たちも読み手も振り回されながら展開していく作品であるが、一方でカミーユという男の物語の側面がある。

カミーユはアレックスの事件を捜査する中心人物である一方、妻を誘拐され殺されるという拭いがたい過去を抱えている。

身長145cmと小柄なカミーユに唯一微笑んだ女性であった妻を亡くした悲しみは想像を絶するものがある。

そして薬剤師の父、画家の母を既に亡くし完全なる孤独なカミーユは、いがみ合いながらも気心の知れた上司、マイペースでいながらも常に上司への心配りを忘れない部下たち、そして捜査により浮かび上がったアレックスというの人生により、彼は自分自身を取り戻す。

妻が殺されたのは母のアトリエであった。過去との決別を図るためアトリエを処分しようと母の画を全てオークションで売り払ったが事件も大詰めに差し掛かったころ、自宅のドアの前に包装された母の自画像が届けられていた。

オークションで売り払った絵が一枚、戻ってきた。

この絵との再会がカミーユ復活を決定的なものとなり、この絵をオークションで落札しカミーユの元へ戻した人物もまた意表をつく者だった。

アレックスという孤独で壮絶な人生を生きた女性、そしてカミーユという孤独な男の再生を描く優れた作品である。


カミーユ警部3部作

初めて読んだピエール・メートル作品であったが、本作は著者のデビュー作から続く3部作の第2作目である。 いずれも読みごたえのあるミステリ作品であり、読むごとにカミーユ・ヴェルーヴェンの魅力が膨らんでいく苦悩に満ちた悲運な男の物語である。

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著者・訳者について

ピエール・ルメートル Pierre Lemaitre
1951年、パリに生まれる。教職を経て、2006年、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第1作Travail soigneでデビュー、同作でコニャック・ミステリ大賞ほか4つのミステリ賞を受賞した。本作『その女アレックス』はヴェルーヴェン・シリーズ第2作で、イギリス推理作家協会インターナショナル・ダガー賞を受賞。日本では「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」ほか4つのミステリ・ランキングで1位となった。2013年、はじめて発表した文学作品Au revoir la-hautで、フランスを代表する文学賞ゴンクール賞を受賞する
――本書より引用
橘 明美(たちばな・あけみ)
1958(昭和33)年、東京生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒業。英語・フランス語翻訳家。訳書に、J・ディケール『ハリー・クバート事件』(東京創元社)、H・ボンド『ラカンの殺人現場案内』(太田出版)など。
――本書より引用

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