×

『銃』 中村文則 【読書感想・あらすじ】

2017/07/28

目次 [隠す]

記事画像

あらすじ

雨が降りしきる河原で大学生の西川が出会った動かないくなっていた男、そのの傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが……。TVで流れる事件のニュース、突然の刑事の訪問――次第に追いつめられて行く中、西川が下した決断とは? 新潮新人賞を受賞した衝撃のデビュー作! 単行本未収録小説「火」を併録。
――本書より引用

読書感想

読みどころ

  • 偶然拾った「銃」と対話し共に過ごしいつしか飲み込まれていく男を描いた文学作品。
  • 「ディティールこそすべて」と言わんばかりの淡々とした描写の連続がわたしのハートを鷲掴み。
  • デビュー作でこの作品を文学界に放り込んできた著者はやっぱ凄い。

何度でも言う、中村文則氏の初期作品が大好きだ

他の感想記事でも述べているが、中村作品の初期三作品というのは本当にインパクトがあり、読んだ当時の衝撃を今でも思い出すことができる。

そして本作「銃」はデビュー作にあたる。

遮光 中村文則 (新潮社文庫) | neputa note

遮光 (新潮社文庫) 中村文則 あらすじと感想。 恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった――。それは

記事画像

土の中の子供 中村文則 (新潮文庫) | neputa note

土の中の子供 (中村文則) あらすじと感想 あらすじ 27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な

記事画像

上に挙げた二作品も素晴らしいのだが、本作品もデビュー作ながらとても好きな作品である。

なにがそんなに良いのか?

著者もあとがきで述べているが、こういった文学色が濃い作品自体が現代作家の中で書く人が少なく希少性があるという理由もある。(だってエンタメ作品ばっかだし)

ただやはり、最もハートを鷲掴みにされるポイントは一人称一人ひとり語りによる、自己との対話、無意識下に潜む己を意識下に引きずり出す迫力ある描写、というような部分なのだけど果たして伝わるだろうか。

「銃」と出会い、「銃」に魅せられ、「銃」に飲み込まれていく

どんな話かと言えばこれに尽きる。

大学生の西川という青年が偶然「銃」を拾い自宅に持ち帰る。

彼はその銃の外観に魅せられ大切に保管する。

わざわざしまうカバン、中敷きにする布、磨くための布ひとつひとつにこだわり宝物のように扱う。

そしていつしか心の中で銃と対話を交わすようになり、更にはときに嫉妬するなど、完全にひとりの人格を持つ存在と言えるほどまでに銃の存在感は彼の中で膨らんでいく。

銃の外観に魅せられた彼は、銃の存在意義、銃の持つ意味的な部分にまでのめり込んでいく。

行きつくとこまで行く男、文学作品の魅力

銃の存在理由、それは生きているものの生命を瞬間的に奪うことである。

銃にのめり込み、そして飲み込まれてしまった彼が行きつく先は一つだ。

この一連の自問自答や意識の変遷が読み手を魅了してやまない文章で描写されるのだから、これはたまらん。

結局行きつくところまで行ってしまうのだけれど、そんなストーリー展開とかそういうのは正直どうでもよい。

ただただ何度も何度もなぞりたくなる文章がある。そしてそのような文章によって表現される芸術作品すなわち文学、と感じる作品が同じ時代に生まれていることが嬉しかったりする。

感じ方は人それぞれだけれども、私にとって中村文則氏の初期三作というのはこういった思い入れが強く、繰り返し繰り返し読んでしまうのであった。


余談

2017/06/22に「教団X」が文庫化された。この作品は多くのメディアに登場し紹介されているが、初期作品と構成は大きく異なり物語があり複雑性も増した長編作である。

いきなり読むにはしんどいが、初期の作品から順番にたどって読んでみると、読みごたえがあり楽しめる作品であると思う。

著者について

中村文則(なかむら・ふみのり)
1977年愛知県生まれ。2002年、『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸』で大江健三郎賞を受賞。他の著書に『悪意の手記』『最後の命』『何もかも憂鬱な夜に』『世界の果て』『悪意と仮面のルール』『王国』『迷宮』がある。

中村文則公式サイト
https://www.nakamurafuminori.jp
――本書より引用

「中村文則」作品の感想記事

※書籍が出版された順

『銃』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

銃 中村文則 あらすじと感想。雨が降りしきる河原で大学生の西川が出会った動かないくなっていた男、そのの傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、「私はいつ

blog card

『遮光』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

遮光 (新潮社文庫) 中村文則 あらすじと感想。 恋人の美紀の事故死を周囲に隠しながら、彼女は今でも生きていると、その幸福を語り続ける男。彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった――。それは

blog card

『土の中の子供』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ 27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあ

blog card

『何もかも憂鬱な夜に』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

何もかも憂鬱な夜に (中村文則) のあらすじと感想。施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らな

blog card

『掏摸』『王国』 <二作品> 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ 東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎――かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼にこう囁いた。 「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お

blog card

『悪と仮面のルール』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ 邪の家系を断ちきり、少女を守るために。少年は父の殺害を決意する。大人になった彼は、顔を変え、他人の身分を手に入れて、再び動き出す。すべては彼女の幸せだけを願って。同じ頃街ではテロ組織による連

blog card

『迷宮』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

迷宮 中村文則 あらすじと感想。胎児のように手足を丸め横たわる全裸の女。周囲には赤、白、黃、色鮮やかな無数の折鶴が螺旋を描く――。都内で発生した一家惨殺事件。現場っは密室。唯一生き残った少女は、睡眠

blog card

『去年の冬、きみと別れ』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。事件の関係者も全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか? それ

blog card

『教団X』 中村文則 【読書感想・あらすじ】 | neputa note

あらすじ 対をなし存在する「2つの集団」。ひとつは「沢渡(さわたり)」という男が教祖として君臨し、都内のマンション一棟に潜むカルト宗教であり、そこには多くの若い男女が集っている。その宗教団体は公安や警

blog card

コメント