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『指し手の顔 脳男2』首藤瓜於【あらすじ・感想】

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あらすじ

連続爆弾犯のアジトで見つかった、心を持たない男・鈴木一郎。逮捕後、新たな爆弾の在処を警察に告げた、この男は共犯者なのか。男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとするが……。そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作。 — 本書より引用

読書感想

読みどころ

  • 江戸川乱歩賞受を受賞した前作『脳男』からのシリーズ続編。精神疾患を絡めた犯罪ミステリの流れをそのままに、物語はさらなる展開を見せる。
  • 前作の「脳男」こと鈴木一郎のほか、新たに強烈なキャラクターも登場する。ある意味キャラ勝負を挑んでいる作品かもしれない。
  • 精神医学、脳医学、医療業界の闇、宗教、性など多岐にわたるテーマが複雑に絡み合い描かれる長編作。

登場人物

主要人物

  • 鈴木一郎…生まれながらにして感情がない疾病を持つ。その過去は多くの謎に包まれている。前作に続き単独行動で犯人を追い詰める。
  • イブ…潘マーシーの養女。強度のサディスト、殺害欲求を持つ。
  • 潘マーシー…医療財団理事。元脳神経外科医。巨大な計画を実行し鈴木と対決する。
  • 鷲谷真梨子…愛和会愛宕医療センターの精神科医。一年前に鈴木一郎の精神鑑定を受け持つ。
  • 茶屋…愛宕市県警本部の刑事。

県立総合病院

  • 佐伯…精神科医。寒河江の担当医。
  • 乾櫻子…精神科のケースワーカー。鷲谷の友人。
  • 下條…精神科の責任者。

患者(事件容疑者)

  • 寒河江治…元力士で現在は教会の住込みボランティア。県立総合病院精神科の患者。立て続けに暴行事件を起こす。
  • 石毛等…鷲谷医師の患者。飲酒により暴力の傾向がある。

警察

  • 鮎川…県警本部管理官。
  • 土居…県警本部の刑事。
  • 猿給黎…科捜研の技官。
  • 千佐…機動捜査隊の隊長。
  • 四家守…中央署の刑事課長。
  • 國安…中央署の署長。

その他関係者

  • 松浦善三…病院患者のブローカー。
  • 田所…元市役所職員。松浦善三に福祉関連の個人情報を渡し懲戒免職に。
  • 神父…寒河江が身を寄せる教会の神父。
  • キャサリン・ブライマー…鷲谷の友人。アメリカ留学先の同級生。
  • ジョナサン・マスバス…元ジャクリーヌ記念慈愛病院所長で潘マーシーの上司だった。

鈴木一郎=入陶大威=脳男というキャラクター

本作『指し手の顔 脳男Ⅱ』はタイトルどおり、前作『脳男』の続編として書かれた作品である。

『脳男』 首藤瓜於 ~殺人因子による自我獲得を描いた問題作~【読書感想】

あらすじ 連続爆弾犯のアジトで見つかった、心を持たない男・鈴木一郎。逮捕後、新たな爆弾の在処を警察に告げた、この男は共犯者なのか。男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとするが……。そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作。

前作でもっとも興味を持ったのが、この感情を持たずして生まれてきた「脳男」という強烈なキャラクターだった。

自閉症児のように一切の反応を見せないほか食事や睡眠に対する本能的な欲求まで欠落した子どもが、やがて「殺人」という大きなショックにより「意識」を獲得する。情動をつかさどる器官の欠落を、彼は驚異の記憶能力で補う。

人々の振る舞いや言動を観察、記憶し、脳をフル回転させることで社会にとけ込んでいくことに成功するのだ。一般的に見られる人間の振る舞いの多くは、本能的欲求、無意識層の動き、反射などに補われている部分が大きく、逐一思考を巡らせることなく行われる。

しかし、感情を持たない・理解しない場合はどうなるか。ひとつの方法として、これらをすべて計算によって実行する。

つまり近頃耳にする「AI」のようなもので、とにかく機械的に学習することで人間と同等の振る舞いを獲得した人物が、この鈴木一郎なのである。

前作『脳男』では、この突出したキャラクターが見事に描写されており、この作品に強い興味を抱くに至ったわけである。だが残念なことに、核心部分を明らかにすることなく作品は終わってしまった。

モヤモヤを取り払うべく、すぐさま本屋に向かい本作を手に取り読んだのだが、果たして結果はあまり芳しいものとはならなかった。

幅広いテーマへと展開した長編作だが

精神科にかかっていた患者がとつぜん姿をくらまし、数日〜数週間後にとつぜん現れ何らかの事件を起こす。偶然とは思えない異常な事件が頻発する。これら一連の事件には不自然な点が複数見られ、人為的に引き起こされていた可能性が疑われる。

いったいこの大掛かりな事件を巻き起こす人物とは、その目的とは何なのか?というのがもっとも大きなエンタメ要素であろう。

前作からの流れを汲んで「精神疾患が絡む犯罪ミステリ」がベースとなっている。900ページに渡って、医療業界の闇、宗教、果てはインターセックスまで広がりを見せる。

宗教、とりわけキリスト教を犯罪行動の背景とする手法は前作にも見られたが、本作ではその傾向はよりいっそう濃いものとなる。

前半部で描かれる精神疾患を患う患者たちの事件においても、「マグダラのマリア」「ベリアルの軍隊」など聖書の世界が登場する。

極め付きは一連の事件の黒幕「潘マーシー」の養女の名前、「イブ」。となれば「アダム」は鈴木一郎であろうか。いや、物語を真にコントールするのが鈴木であることを考えれば、彼は「神」の役割か。

多岐にわたり展開されるテーマや、問題提起とも取れる登場人物たちの長尺のセリフなどからは、それぞれに対する著書の関心の高さをうかがい知ることができる。しかしながら、ぼんやりとしたまま迎える帰結には、著書がいずれに対しても確たる答えを持ち合わせていないことの表れのようにも感じてしまう。

そして、またしても続編を示唆した終わり方。

次作が発表されたとして、果たして手に取るか非常に悩ましいところである。

腑に落ちないところ〜2点

その1

前作の鈴木一郎に対し、本作ではイブという強烈なキャラクターを登場させている。彼女の生い立ちから潘の養子になるまで、そして内面をかなりのページを割いて描写している。だが身体的の能力が男性並みである点はインターセックスだとしてその裏付けを示しているものの、あの過剰なまでの暴力性については説明できていないと感じるのはわたしだけだろうか。

その2

潘マーシーの壮大な計画は、社会に変革をもたらすレベルの大掛かりなものである。費やす資金やエネルギーはかなりのものである。それだけのことを成すための動機が、26年前の娘が殺害された事件としていることと、鈴木一郎との出会いから最後に殺害を目論む結論との関連性が、いまいちよくわからない。わからないゆえに理不尽さだけが残るのは、これまたわたしだけだろうか。

気付きとなった点

半ばやつ当たり気味の感想となっているが、大いに目を引くところもあった。医療業界で暗躍する闇ブローカーの話や、精神医療における問題などについて、登場人物たちによる議論する場面。

フィクションではあるが、その会話には多分に現代社会とリンクするところがあり、いろいろと考えさせられる。

鷲谷が勤務する愛和会愛宕医療センター精神科の責任者である「下條」という人物は、筋金入りの心因説論者として描かれている。

凶悪な犯罪を引き起こすような精神の障害には不幸な生い立ちなどの要因が必ず存在し、社会全体が偏見を捨て力を合わせれば、ある種の精神障害の「発現数」を減少させることは可能だとうのが彼の主張だ。

わたしは専門家ではないが、この主張がすべての精神疾患にあてはまるとは限らない、ということはわかる。だが、社会構造のその内容により「発現数」を減らすという点は大いにうなずける。

誰しも精神を患う可能性を持っており、またそれぞれの疾患が発現する沸点は異なる。その沸点を高く保つには社会が人に与えるストレスなどの負荷を減少させる必要がある。教育などにより偏見や差別を減らすことも有効な手段であろう。そうやって社会の許容可能な精神疾患が増加すれば、「異常」は「正常」へ、その立ち位置が変化するのではないか。

残念ながら、ストレスは金になる。異常と正常の乖離が進めば進むほど都合がよい。それが現代社会の実情だろう。

著者について

首藤瓜於(しゅどう・うりお)
1956年栃木県生まれ。上智大学法学部卒業。会社勤務等を経て、2000年に『脳男』で第46回江戸川乱歩賞を受賞。著書に『事故係 生稲昇太の多感』『指し手の顔 脳男Ⅱ』(上・下)『刑事の墓場』『刑事のはらわた』がある。新刊は『大幽霊烏族 名探偵面鏡真澄』。 — 本書より引用

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