『ワン・モア』 桜木紫乃 【読書感想・あらすじ】

2022/03/16

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あらすじ

安楽死事件を起こして離島にとばされてきた女医の美和と、オリンピック予選の大舞台から転落した元競泳選手の昴。月明かりの晩、よるべなさだけを持ち寄って躰を重ねる男と女は、まるで夜の海に漂うくらげ――。同じ頃、美和の同級生の鈴音は余命宣告を受けていて……どうしようもない淋しさにひりつく心。人肌のぬくもりにいっときの慰めを求め、切実に生きようともがく人々に温かなまなざしを投げかける、再生の物語。
――本書より引用

読書感想

北海道が舞台の短編連作。

「柿崎美和」、「滝澤鈴音」は二人とも医師であり、高校時代からの友人でもある。

彼女たちを中心に、各編ごとに主人公が入れ替わりながら物語は進んでいく。

鈴音は優等生としての人生を歩み、大病を患い人生の岐路にぶつかる。

美和は周囲の風評をものともしないトラブルメーカーだが頼もしい人物である。

十六夜

冒頭の「十六夜」は、美和の強烈なキャラクターを印象付ける物語。

美和と「すばる」を覚えておこう。

ワンダフル・ライフ

続く「ワンダフル・ライフ」は、「ワンダフル」という言葉をどうとらえてよいか非常に悩ましい、鈴音の物語。

美和は単純とまではいかないが、言動一致によるわかりやすさがあるが、鈴音は生き方がなかなかに複雑である。

大病を患った鈴音が頼ったのは親友の美和ともう一人、元夫の「拓郎」であった。

おでん

「おでん」は、彼女たちから少し距離がある人物、同じ町内の本屋の店長「佐藤亮太」と、本屋の元アルバイト「坂木詩緒」の物語。

あまりに悲しい恋愛ストーリーのようだがはてさて。最後に本作における彼らの関係位置がわかる。

ラッキーカラー

「ラッキーカラー」は、両親の町病院を継いだ鈴音を支えるベテラン看護師「浦田寿美子」の物語。

ひとつ前の「おでん」と同様、恋愛ストーリー。

恋愛小説は苦手で普段あまり読むことが無いのだが、この二編は非常にやきもきハラハラしながら夢中で読んでしまった。

浦田と彼女が世話をした元患者の「赤沢邦夫」の恋の行方は如何に。

感傷主義

「感傷主義」は、美和と鈴音の同級生である「八木浩一」の物語。

美和と鈴音と同じく医師を目指した彼は、高校時代に挫折しレントゲン技師としての道へと進む。

優秀な二人を前にコンプレックスや複雑な感情を抱えながら生きる姿は胸にくるものがある。

ワン・モア

ラストは本書のタイトルでもある「ワン・モア」。

この「ワン・モア」に至るまでの五編で五組の男女が登場する。

そして、本作の後半に差し掛かる「ラッキーカラー」では、鈴音が飼っている犬が五匹の子犬を出産するシーンがある。

この五匹の子犬たちは五編の物語と対となっており、その意味するところは子犬につけられた名前で表現されている。

物語の構成でも楽しませてくれる。

まとめ

主に命の行方、恋の行方にハラハラさせられる。

最後の方は、かなりビビりながらページをめくり、薄目で文字を追っていき、思わず声が出るみたいなのを繰り返していた。

とにかく登場人物たちの感情が刺さる。彼女たちの悲しみは私の胸を引き裂き、喜びは私の胸を幸福で満たしてくれる。

昨今の不安定な状況下における私の心理状態がそうさせたのか、いやこれは著者である桜木紫乃氏の力だ。

説明は無い。著者は、人物たちのごく自然な会話や所作を描写することで紙面に感情を浮かび上がらせる。

本作は、主要人物たちが夢を追っていた学生時代から、人生の苦楽が積み重なる大人になるまでの期間を描いている。

そして、物語を通じて「人生には何が待っているか分からないから生きていく価値はある」と思わせてくれる。

できることなら学生時代に読みたかったし、大人になったいま読み返したい作品だった。

若い方にはぜひ今すぐ読んでほしいし、大人の方には私と同じ歯がゆさを味わってほしい。

ストーリーも構成も登場人物も表現もすべてが素晴らしい一作だ。

著者について

桜木紫乃(さくらぎ しの)
1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。07年、初の単行本『氷平線』が新聞書評等で絶賛される。11年刊行の『ラブレス』で13年、島清恋愛文学賞受賞。同年、『ホテルローヤル』で直木賞受賞。その他の著書に『風葬』『凍原』『硝子の葦』『誰もいない夜に咲く』『起終点駅(ターミナル)』『無垢の領域』『蛇行する月』『星々たち』『ブルース』等がある。
――本書より引用

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