『テロ』 フェルディナント・フォン・シーラッハ 【読書感想・あらすじ】

2022/03/24

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あらすじ

二〇一三年七月二十六日、ドイツ上空で旅客機がハイジャックされた。テロリストがサッカースタジアムに旅客機を墜落させ、七万人の観客を殺害しようと目論んだのだ。しかし緊急発進した空軍少佐が独断で旅客機を撃墜する。乗客百六十四人を殺して七万人を救った彼は英雄か? 犯罪者か? 結論は一般人が審議に参加する参審裁判所に委ねられた。検察官の論告、弁護人の最終弁論ののちに、有罪と無罪、ふたとおりの判決が用意された衝撃の法廷劇。どちらの判決を下すかは、読んだあなたの決断次第。本屋大賞「翻訳小説部門」第一位『犯罪』のシーラッハが放つ最新作!
――本書より引用

読書感想

個人的にいま最も熱いのが「フェルディナント・フォン・シーラッハ」である。

いや、これまでの読書歴においてナンバーワンであるといっても過言ではない。

どのぐらいハマっているかはこちらの記事に書き散らしているのでもし興味があればぜひ読んでほしい。

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全作を読破しよう!とデビュー作から読み進め、そして本作『テロ』である。

硬質かつ簡潔な文体が特徴のシーラッハ作品であるが、本作においてはとうとう小説という殻すらも脱ぎ捨て、「戯曲」。

事実のみを淡々と積み上げ読者を圧倒するシーラッハ文学は、小説という体裁すらも余計だったのかもしれない。

内容は、上記に転載したあらすじのとおり、裁判劇である。

自由主義を掲げるいわゆる西側諸国の憲法には人間の尊厳をもっとも尊重すべきものとして掲げている。

日本も同様に「基本的人権の尊重」について憲法に書かれているとみなが学生時代に学ぶ。

百六十四人の乗客を乗せた旅客機が七万人の観客がいるスタジアムに突っ込む、この状況で人間の尊厳をもっとも尊重すべきとする我々はどうすればよいか。

人間の尊厳に重きを置くが故に生じる矛盾を突くのが現代のテロである。

思考ゲームのようではあるが、911を知る私たちにとって、これは仮定とは言い切ることができない。

自由主義の国で暮らす私たちはシーラッハが投げかけたこの問いを避けることはできず、苦しみながら長い時間をかけて向き合っていかなければならないのだろう。

あらすじにある通り、本書の結末は二篇用意されている。

「有罪判決」と「無罪判決」である。

ちなみに、本書の装丁は表面が「黒」、裏面が「白」である。

実際に読んでみると、どちらの判決も起こりえると強く納得してしまう。

その時の参審者の顔ぶれや、裁判のタイミングの世相などでとちらに転んでもおかしくはない。

憲法には、人間の尊厳をもっとも尊重すべき、と答えがあるハズなのに、我々は、この問いに普遍なる解を返すことができないのだ。

先人たちが「法」や「人権」を発明し、人類は日々進化し続けているはずだが、本作によってまだまだ途上であることを思い知らされる。

ここまで、自由主義の国では……とわざわざ注釈的に記載しているには理由がある。

ちょうどロシアがウクライナに侵攻したタイミングで本作を読んでいたからだ。

本作品は、あくまで自由主義を良いモノと考える人々にとって難問であり、この世界は自由主義を良しとしない人々も同じかそれ以上にいるわけだよな。

アメリカが中東に押し売りした自由主義は、時を経て現地の人々によって取り除かれた。

そういえば、この世界には差別したい人々が数多くいることを、アメリカでトランプ大統領が誕生したときに気づかされたのだった。

だいぶ脱線した。

シーラッハの『禁忌』という作品に、「法とモラルがちがうように、真実と現実も別物だ」という言葉がある。

ひとつの現実の出来事に対し、それと相対した人の数だけ異なった真実が生じるといった意味だろうと私は解釈している。

世界はひとつではないし、それを構成する人もひとりひとり違う。が故に問題は常である。

とはいえ、人類は直面した問いに対し解を導き出すことを重ねて現代までたどり着いたのだ。

そして、その結果は人類全体がより良い方向へと向かうものであるのだと信じたい。

そう信じて、本作が立てた問いへの解について考え続けたい。

舞台版『テロ』

本作は戯曲であり、世界各国で舞台化されている。

日本では2018年に公演があった。

上演において、観客が有罪・無罪の票を投じるという興味深い演出が行われたそうだ。

この演出は、日本だけでなく各国で行われており、その投票の結果が公式サイトに掲示されている。

西側諸国およびイスラエルにおいてはハッキリと無罪の結果が出たようだが、日本での公演においては割れている。

再演は無いのだろうか、ぜひ観てみたかった。

著者・訳者について

フェルディナント・フォン・シーラッハ
Ferdinand von Schirach
1946年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年最高指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍する。デビュー作である『犯罪』(2009)が本国でクライスト賞、日本で2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を受賞した。2010年に『罪悪』を、2011年に初長篇となる『コリーニ事件』、2012年に短篇集『カールの降誕祭』、2013年に長篇第二作『禁忌』を刊行。初の戯曲でありテロを題材にした本書は刊行直後からドイツで大激論を巻き起こし、ドイツ語圏の30カ所以上の劇場で別演出で上演され、映像化も予定されている。 http://www.schirach.de/
――本書より引用
酒寄進一 Shinichi Sakayori
1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。イーザウ「ネシャン・サーガ」シリーズ、ブレヒト『三文オペラ』、ヴェデキント『春のめざめー子どもたちの悲劇』、フォン・ハルボウ『新訳メトロポリス』、フォン・シーラッハ『犯罪』『罪悪』『コリーニ事件』『禁忌』『カールの降誕祭』他訳書多数。
――本書より引用

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