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【読書感想】 空夜 帚木蓬生

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あらすじ

幼なじみの慎一が診療所の医師として戻り、真紀の心は波うつ。夫に仕事に疲れていた病弱な彼女に、生きる歓びが甦る。絢爛たる桜、一面の菖蒲、燃え上がる櫨の並木……、見慣れたふるさとの風景も色づいて見えてくる。四季の移ろいの中に揺れ動く大人の純愛を描いた、柴田錬三郎賞受賞作家の名作ロマン。
――本書より引用

読書感想

物語の概要

舞台は九州の山里にある田舎の村。町までは車で2時間、周りは山や畑とわずかな民家という場所で主人公の真紀は祖母、父母、夫と娘の6人で代々続く酒蔵の家で暮らしている。

古くからの慣習が色濃く残る田舎で育った真紀は子供のころから自分を押し殺すことに慣れてしまい、結婚も父が見込んで連れてきた男が相手であった。

そんな真紀の村に、幼なじみであり子供時代に町へと転校し医師となった慎一が村へ帰って来るところから物語は始まる。

物語の中心には真紀が慎一に抱く思いの変化があり、それと対をなすように真紀の親友俊子という女性の恋愛模様が描かれている。

いずれも夫と子供をもつ女性であり、簡単に言えば不倫をしている2人の女性を描いた話しとも言える。

最近でもなにかと話題になり炎上しやすい不倫であるが、正しいこととは言えないものの犯罪とは違い道徳上において罪とされる類のものは、一概に考えを述べることの難しさがある。そういった思いは本書を読むことで一層深くなった。

真紀と俊子、そして不倫

慎一は真紀にとって初恋の人でもある。喘息のため通院がかかせない真紀にとって慎一は頼れる医師であり、再会から顔をあわすごとに思いが募っていく。

「不倫じゃないか」と言えばまあそうである。

友人の俊子は横暴な年上の夫との夫婦生活において「子供が成長し40歳になったら自由に生きる」と確信犯的に恋人との時間を謳歌する。

対して真紀の方はと言えば、慎一への思いを押し殺すように過ごしてしまう。

「嫌いなことばかりしていたら、石のようになってしまう」

真紀が娘との会話で漏らした言葉だが、自分自身を指してのこととも取れる。

自分の希望を叶えることをすべて諦めて生きてきた真紀の心は石のように温かみのないものになってしまったのだろう。しかし慎一との再会で凝り固まった魂がほぐれ、日々に色が着いていく様子が胸を打つ。

真紀が抱く慎一への思いは、それまで諦めていた自分の人生や、何もない自分の故郷、古めかしい生家と家族を受容するまでに彼女を生き返らすほどの力を持つものだった。

こういう恋もある。果たして不倫とは全て罪なのか、などと野暮なことは思わないし、あれは良くてこれはダメなどと言うのもおかしなことであろう。

恋愛というものは、結局のところどこまでいっても当事者たちのものであり、親族ならともかく外野があれこれ言うものではないのだと改めて思う。

ただ、物語の初めと比べ、後編につれて自分の言葉で話し、自分の気持ちを肯定できるようになっていく真紀はとても美しく感じる。

本作の見所

著者の作品における風景描写は草木や虫の名前なども書かれており、いつも美しい情景を思い起こさせてくれる。

本作では福岡の自然と変化する真紀の心がなんどもシンクロする様がとても美しく、ここがいちばんの読みどころであり、美しい山里の村と美しき人の姿が印象的な物語であった。

と、感想は以上なのだがどうしても気になる人物がいる。

真紀の夫である「誠」だ。非常に狡猾で小心な人物として描かれているこの男はギャンブル依存がひどく、過去にも物語の現在でもサラ金に手を出し真紀たち家族に迷惑をかける。

真紀の父母・祖母はとても心優しい人物たちであり、人間の暖かさと美しい自然のなかにいながらも誠はついぞ更生することはない。

ギャンブルに落ちるということは、何をもってしても救われることがないのだと暗示しているようで本作の暗黒面として印象深いものがあった。


著者について

帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)
1947年、福岡県生まれ。東京大学仏文科卒業後、TBS入社。二年間の記者生活を経て九州大学医学部に進んだ。現職の精神科医。'93年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、'95年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、'97年『逃亡』で柴田錬三郎賞を受賞。著書は他に『臓器農場』『総統の防具』など多数。
――本書より引用

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