『模倣犯』 宮部みゆき 【あらすじ・感想】【ネタばれ有り】
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『模倣犯』あらすじ>
直木賞受賞作『理由』以来、3年ぶりに放つ現代ミステリの野心作
公園のゴミ箱から発見された女性の右腕、それは史上最悪の犯罪者によって仕組まれた連続女性殺人事件のプロローグだった。比類なき知能犯に挑む、第一発見者の少年と、孫娘を殺された老人。そして被害者宅やテレビの生放送に向け、不適な挑発を続ける犯人――。が、やがて事態は急転直下、交通事故死した男の自宅から、「殺人の記録」が発見される、事件は解決するかに見えたが、そこに、一連の凶行の真相を大胆に予想する人物が現れる。死んだ男の正体は? 少年と老人が辿り着いた意外な結末とは? 宮部みゆきが“犯罪の世紀”に放つ、渾身の最長編現代ミステリ。 — 本書より引用
読書感想
『模倣犯』の読みどころ
- 事件関係者を意のままに操り劇場型犯罪を繰り広げる犯人に迫るミステリ作品。
- 被害者遺族、警察、マスコミ、犯人それぞれの視点が交錯する物語展開。
- 成熟社会における犯罪因子とそれが引き起こす社会的影響を解き明かそうとする試み。
といったところだろうか。
しかし正直なところ物語に入っていけず、上下巻1400ページがただただ長く感じるだけの読書となってしまった。
なぜこんな具合になってしまったのか要因を考えるとともに感想を記録しておく。
ミステリとして楽しめる第1部
本作ではいくつかの視点が入れ替わりながら、それぞれの人物たちによる物語の中核を貫く連続殺人事件への関わりを描いている。
上巻の半分を占める第1部で主な視点は、以下の4つであろう。
- 有馬義男 被害者遺族
- 塚田真一 過去の一家殺人事件の生存者
- 前畑滋子 フリーライター
- 武上悦郎 警察の捜査デスク
塚田真一という少年が犬の散歩中、公園で遺体の一部を発見したところから事件が発覚。物語は幕を開ける。
この塚田という少年は何かと不幸が続く人物であるが、物語を通じて人と人をつなぐハブとしての役割として配置されているように感じた。
被害者のみならず、被害者遺族までいたぶろうとする人間が持つ悪意を凝縮したような犯人の存在、苦しみ壊れていく遺族たち、翻弄される警察、第1部は純粋にミステリー作品として楽しめる。
そして入り込めなかった第2部以降が長かった
第2部は冒頭から犯人側の視点が新たに加わる。
犯人は栗橋浩美と網川浩一の2人で、網川がシナリオを書くリーダー各で、調子に乗りやすい栗橋は演者という役割である
2人が殺人を犯すようになった共通する背景として、それぞれ幼いころから存在を否定されてきた点をほのめかしている。
そして、栗橋は狂気、網川は無垢な悪意を抱える存在として描こうとしているのかと感じるのだが、ここら辺りが物語に入っていけなかった要因ではなかったかと思う。
栗橋に関しては彼のくだりだけ抜粋すると、京極夏彦作品と見まがうほど。亡霊などオカルト要素を盛り込み、殺人を犯してしまうほどの狂気を描きたかったのかと感じる。だが読めば読むほど冷めていく。
また網川という人物も、彼の核となる部分がいまいち見えづらく、よくわからない存在のまま読み終えてしまった。
中盤にサラッと書かれていた、2人が10歳の時に行ったはじめての殺人というのは網川の母を対象としたものと思われ、その辺りに網川の核のにおいを感じるのだがあっさりと終わってしまう。
著者は狂気や悪を当事者視点で書くことが苦手なのかもしれないなどと邪推をする。
前回読んだ「火車」は非常に面白かったのだが、思えば狂走する失踪女性が本人視点で描かれることは限定的で、ほとんどが外からの視点であったように思う。
火車 (宮部みゆき) のあらすじと感想。 あらすじ 休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか?
そして有馬義男。
彼は勇敢にも事件と向き合う人物として描かれているのだが、本作で唯一実体性を感じ取ることができる人物だった。
地道に人生を積み重ね生きてきた有馬氏。一方、背景と結果の因果関係がぼやけたまま(と感じる)犯人たち。彼らの人間としての厚みの差が浮き彫りになるばかりである。
わたしの読解力の浅さ故か、何とも消化不良の感じになってしまった。
本作の続編にあたる「楽園」も上下巻買ってあるのだが、読むかどうか足踏みしている。
何か別の作品をはさんでその間にどうするか考えることにしよう。
続篇「楽園」について
本作品には、後日談を交えたミステリ作品として「楽園」という作品がある。こちらも個人的にはあまり入り込めず満喫することは叶わなかったが、その後の彼らがどうなったかを知ることができる意味ではよかった。
あらすじ 未曽有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件) から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ、女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子、等が〝超能力者〟を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に、16年前の少女殺人
著者について
宮部みゆき (みやべみゆき)1960年12月、東京都江東区生まれ。87年に『我らが隣人の犯罪』で第26回オール讀物推理小説新人賞を受賞。92年に『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞、『龍は眠る』で第45回日本推理作家協会賞、93年に『火車』で第6回山本周五郎賞、99年に『理由』で第120回直木賞を受賞。著書は他に『レベル7』『地下街の雨』『蒲生邸事件』『天狗風』『クロスファイア』『ぼんくら』など多数 — 本書より引用