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『風花病棟』 帚木蓬生 ~10人の医師を描く短編集~【あらすじ・感想】

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『風花病棟』あらすじ

乳癌と闘いながら、懸命に仕事を続ける、泣き虫先生(「雨に濡れて」)。診療所を守っていた父を亡くし、寂れゆく故郷を久々に訪れた勤務医(「百日紅」)。三十年間地域で頼りにされてきたクリニックを、今まさに閉じようとしている、老ドクター(「終診」)。医師は患者から病気について学ぶのではなく、生き方を学ぶのだ――。 生命の尊厳と日夜対峙する、十人の良医たちのストーリー。 — 本書より引用

読書感想

読みどころ

  • 十人十色、同じ職業である医師であってもそれぞれの人生がある。10人の医師たちの人生に触れることができる10篇の短編集。
  • おそらくは全編舞台は九州であろう。九州の豊かな自然と季節の移ろいが彼らの人生と折り重なる描写が美しい。
  • 現役の精神科医である著者が細やかに描く医師と患者の心象はあまりにも現実的であるが温かい。

心温まる10人の医師たちを描いた10篇の短編集

幸いにも健康体であり、ふだん医師たちの働く姿を目にすることはないし意識する機会もなかなかない。あるとすれば、医療界の不祥事がニュースで流れたとき。

これまで医師と対面した際、彼らの人生など考えたことはなかった。が、そういう方も多いのではないだろうか。

本作品では10人の医師たちの人生に触れることができる。

考えてみればあたり前のことであるが、彼らにも青春時代があり日々の悩みがあり、なかには重病を抱え患者という立場を経験する者もいる。

患者とのやりとりを通じて彼らが抱く心象などは非常に興味深いものがあり、また全編つうじて心の隙間をそっと埋めてくれるような人間同士の触れ合いからにじみ出る優しさが読後感を心地よいものにしてくれる。

九州の自然とともに描かれる物語

帚木氏の作品の特徴・好きな点として、自然の草花やさまざまな生き物の描写がある。本作品にも九州のさまざまな自然の姿や草花が登場し、物語をより印象づける役割を果たしている。

他の作品でも登場したことがある「山藤」はとくに好きだ。(藤籠)

山裾を紫色の絨毯が広がっている様子を描いた描写はとても幻想的で、私はいつも絵本の中の世界に運ばれていくような不思議な気分になる。

他にも百日紅を題材にしたものや、医師と患者で花壇を植えたり、医療の現場と自然とが混ざり合った物語が楽しめる。

現役医師の著作であること

著者は現役の精神科医であり、小説家として著作を発表し続けながらも診療の現場に立ち続けているそうだ。

医師の立場で現場をよく知る著者が描く患者たちの心模様はとても現実味があり、その苦しみや迷いなどを丁寧に描いている。

それは、医師側の立場でありながらも互いに人間同士であり患者たちの揺れ動く感情とまっすぐ向き合ってきた方だからこそ表現できるものなのだろうと想像する。

帚木氏の作品は、強烈な現実と、どこまでも優しい人間愛に満ちた作品が多く、私はほんとうに大好きだ。

いつまでもお元気に医師として、作家としてご活躍されるよう心より祈る次第。

著者について

帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)
1947(昭和22)年、福岡県生れ。東京大学仏文科卒業後、TBSに勤務。2年で退職して九州医学部に学び、現在は精神科医。‘93(平成5)年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞、‘95年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、‘97年『逃亡』で柴田錬三郎賞を受賞した。2011年『ソルハ』で小学館児童出版文学賞を受賞。他に『臓器農場』『ヒトラーの防具』『安楽病棟』『国銅』『空山』『アフリカの蹄』『エンブリオ』『千日紅の恋人』『受命』『聖灰の暗号』『インターセックス』『風花病棟』『水神』『蠅の帝国』など著作多数。


— 本書より引用

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