血縁について
初稿:
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血縁(読み)ケツエン 血のつながりのある間柄。血すじ。また、血のつながっている親族。血族。けちえん。「血縁をたどる」 —血縁(ケツエン)とは? 意味や使い方 - コトバンクより引用
家族は大切だ。私にとって大切な家族とは、私のパートナーのみを指す。
「血縁」という間柄だと私には両親と妹がいる。妹は2021年に亡くなり両親は健在である。
私はあの人たちと接触する機会があらかじめわかっているとき、必ず「クエチアピン」という錠剤と「エビリファイ」という内用液を携帯する。
これまでの人生で常に心の中にあったのは、あの人たちとの関係を構築することだった。つまりは恨みや怒りを克服する、自分自身の問題である。
父親とは安全な距離感を構築できた気がする。これは、彼の私に対する無関心が大きく寄与している。
妹とは、けっきょく関係性を構築することができないまま、その機会は永遠に失われてしまった。私を憎んでいたであろうし、私も彼女を許せないまま終わってしまった。
母親とは昨日コトが起きた。
三日前から電話がたびたびかかってきた。最初は果物をもらったから取りに来ないか?という話だった。いま思えば、これは撒き餌だった。とりあえず拒絶することなく、一週間後を目途に取りにいく旨を伝えた。また、いきなり電話をかけずに、LINEを使ってほしいことも重ねて伝えた。
次いで翌日、再び電話をかけてきた。来る前に連絡が欲しいとのこと。前回の電話で私はそう伝えている。良くない兆候だ。
そして昨晩、再々度、電話をかけてきた。「何かある」と出る前に分かった。思えば、ここで私はクエチアピンを可能なかぎり摂取すべきだった。
私の両親は仲が悪い。私の幼少期からそれは変わらない。父は無関心であり、母は荒れ狂う。二人の関係性の悪さは子である妹と私をいつも巻き込んだ。
今回も同じだった。これまで幾度となく私たち血縁者は離散すべきと伝えてきた。十二分の距離があって初めて関係構築の一歩を模索できるかどうか。それぐらい共に生活することが困難な人間たちなのだと。
彼女は強力なバイアス保持者だ。理解できる部分だけを吸収し、それ以外は完全に消去する。跡形もなく消去する。ある意味、異能力者だ。かつて勇気をふり絞り、幼少期の私に散々振るった暴力について問うたとき、「覚えていない」と返された。
そして、自分自身で抱えきれないことを他者に押しつけて解決を図る傾向がある。
今回もまた同じだった。あなたと私の間に信頼関係はこれっぽっちも存在しない。そんなことを押しつけてよい間柄ではない。何十年と繰り返していることを自覚してほしい。人には感情があって傷つくことをわかってほしい。恨みや憎しみは蓄積するものであり、積み上がったそれは二度と消えずに私の中にあることをいい加減理解してほしい。
そう思いながらも、うまく話を逸らし、軟着陸して会話を終えようと考えていた。私は意外と冷静で、何とかなると思いながら話を聞き続けていたが、書き起こすのもおぞましい呪詛を叫びながら電話を切ってしまった。
いきなり大声をだしたせいか、喉の奥が切れて血が出た。
最悪だ。
年月を重ねればいつの日か解放されるし何とかなると思っていた。いい年をして、まだ同じところをぐるぐる巡っていることがいちばんキツい。生きた痕跡ごと消滅したい思いがつぎからつぎへと這い上がってくる。慌ててクエチアピンをガリガリと飲みこんだ。
もっと用意周到にのぞむべきだった。意識の上で何とかできると思っていたが、とんだ思い違いだった。無意識の私はちゃんと分かっていた。そして、いまだに私は心の奥底で「消えていなくなってほしい」と思っていると知った。あるいは私がそうなるべきで、妹は正しかったのか。
ニュースでいい年した子が親をあやめる事件を見聞きするたび、無意識に体が硬くなる。他人ごとではないと分かっているのだ。
母親は今回のことも恐ろしいぐらい都合の良いトリミングをして記憶する。愉快な会話をしたぐらいに記憶したとしても驚きはない。私は心底疲れた。