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【読書感想】『屠場』 本橋成一 ~屠殺場というリアルが問いかける写真集~

2011/03/12

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内容

筑豊やチェルノブイリの記録を発信してきた本橋成一が、故なき職業差別と身分差別に抗いながら、大阪・松原の屠場でいのちと向き合う人びとを追った、渾身のドキュメント。
――本書より引用
屠場 装丁

読書感想

ノンフィクション作品かエッセイであろうと良く確かめもせず注文し、届いたら大判のモノクロ写真集であった。

聞きなれぬ「屠場」という言葉。これは、生きている家畜を屠殺し食肉にする屠殺場のことで、本書は屠場を撮影した写真集である。

現在はかなりの部分で機械化が進み、死を感じにくい環境となっているようであるが、本作は旧来の屠殺場における仕事風景を収めた写真集となっている。

屠殺風景の写真はモノクロであるためギリギリ見ることが出来た気がする。

熟練者たちは、消費者がウマイと感じる肉となるよう腕をふるう。

そうだ、自分は肉を食べる、屠殺された肉を食べる、そんな当たり前のことを強く意識する。

この仕事にたずさわる人たちは「命」を常々意識しているのだと感じた一文があったので引用する。

牛の眉間に鉄の芯棒が突き出る鉄砲を毎日何十頭に打ち込むSさんは、蚊がたかっても決して叩かない
手のひらで、そっと追い払うのだ
――本書より引用

都市で日々時間に追われながら生きる暮らしの中で、いつしか「命」の手触りというか、感触は極めて曖昧なものになってしまったと思った。

モノクロの写真と、ところどころで語られる屠殺場で働く人たちの言葉を通じて、薄れかけてた「命」の輪郭がくっきりと浮かび上がる。

自分は何者かを忘れぬように、ブックオフすること無く手元に置いて時々開くことにする。

著者について

本橋/成一
1963年、自由学園卒業。1968年、写真集『炭鉱(ヤマ)』(現代書館)により第5回太陽賞受賞。1995年、写真集『無限抱擁』(リトル・モア)で日本写真協会年度賞、写真の会賞を受賞。1998年、写真集『ナージャの村』(平凡社)により第17回土門拳賞受賞。同名のドキュメンタリー映画は文化庁優秀映画作品賞を受賞、海外でも高い評価を受けた。2002年、映画第2作『アレクセイと泉』で、第52回ベルリン国際映画祭ベルリナー新聞賞及び国際シネクラブ賞を受賞、第12回サンクトペテルブルク国際映画祭でグランプリを受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
――本書より引用

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