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『ヤクザマネー』 NHKヤクザマネー取材班 【あらすじ・感想】

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本書の概要

2007年11月11日にNHKで放送された「NHKスペシャル - NHK」の取材班による取材記録。政府が進めた金融規制緩和により、投資マネーが膨れ上がり、新規上場を目指すベンチャー企業がいくつも登場する。そこには大量の資金を供給するヤクザと、それを高度な金融知識で運用する元金融マンたちの姿があった。

読書感想

読むキッカケと感想

以前読んだ、「悪と仮面のルール(中村文則)」(参照)の参考文献をまとめ買いしたうちの一冊。

『悪と仮面のルール』 中村文則 【読書感想】

あらすじ 邪の家系を断ちきり、少女を守るために。少年は父の殺害を決意する。大人になった彼は、顔を変え、他人の身分を手に入れて、再び動き出す。すべては彼女の幸せだけを願って。同じ頃街ではテロ組織による連続殺人事件が発生していた。そして彼の前に過去の事件を追う刑事が現れる。本質的な悪、その連鎖とは。日本

金融の世界に詳しくないが、若い企業や株式市場に暴力団が絡むうわさ話は時折耳にしたことがある。

本作は、そのうわさの向こうで実際にカネを出し運用を行う人物たちに辿り着き取材を行った、一連の流れとその場面が記されている。

あるベンチャー企業の話

2001年か2002年ごろ、茨城県が主催する県民祭りのようなイベントがあり、催しのひとつとして開催されたセミナーに仕事で関わった。

そこでプレゼンを行ったひとりに「株式会社ゆびとま」という会社を経営する小久保徳子さんがいた。

彼女は当初Web開発を行う会社に努め、独自に同級生を見つけコミュニケーションを取ることができるサービスを開発し、やがて独立をした。

プレゼンではその同窓会サイト「この指とまれ!」を紹介していた。

まだSNSサービスが盛んになる以前の話であり、とても素晴らしいアイデアとサービスに驚いた。

プレゼン後に質疑応答があり、一人の男性が質問をした。

熱心な応援の言葉の後に、「小久保さん、私は長崎で同級だった○○です。偶然パンフレットにあなたの名前を見つけ駆けつけました」と語った。

二人は同級生であったのだ。

思わぬ同級生再会のシーンに一同感動し、私も拍手を送ったことを覚えている。

そして話は飛び、ちょうどこの本が出版された2007年のことだが、久しぶりに「ゆびとま」の名前をニュースで目にした。

そのニュースは、とあるベンチャー企業に絡む金融事件で、元暴力団の人間が数名逮捕されたものだ。

それら逮捕者が「ゆびとま」の役員として名を連ねており、小久保さんは2005年にすでに会社を乗っ取られて追い出されていた。

ユーザーが増え続ける「ゆびとま」は資金調達の必要に迫られ、そこでこの逮捕者らが介入することになったようだ。

若い企業はカネを必要とするが、彼らを支援する仕組みは貧弱であり、そこに多くの隙が生まれる。

金融規制緩和は暴力団にとって格好のシノギの場であり、共生者と呼ばれる元金融マンに隠れ、彼らは地下深く潜り、警察はその実態をつかめずにいる。

他人ごとのように読み進めていたが、「ゆびとま」のことを思い出した途端、一気に背筋が寒くなった。

国、企業、共生者、ヤクザ、彼らの行動目的に共通するのはカネだ。

拝金主義者たちの活動のもとで犠牲になる者がいる。

IT技術の力でかつての同級生が再び出会える、明るく語っていた小久保さんの姿を思い出す。

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