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『ふたりの証拠』 アゴタ・クリストフ 【読書感想・あらすじ】

2016/12/05

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あらすじ

戦争は終わった過酷な時代を生き延びた双子の兄弟一人は国境を越えて向こうの国へ。一人はおばあちゃんの家がある故国に留まり、別れた兄弟のために手記を描き続ける。厳しい新体制が支配する国で、彼がなにを求め、どう生きたかを伝えるために――強烈な印象を残した『悪童日記』の待望の続篇。主人公と彼を取り巻く多彩な人物の物語を通して、愛と絶望の深さをどこまでも透明に描いて全世界の共感を呼んだ話題作。
――本書より引用

読書感想

読みどころ

  • アゴタ・クリストフの処女作『悪童日記』の続篇、3部作の第2作目。
  • 前作に引き続き多彩な個性あふれる登場人物とシンプルな文体。
  • 大人になった少年の生き様と揺れ動く様子に心を揺さぶられる。

ついに名前が明かされる

前作では「ぼくら」と双子による一人称のみで語られており、ついぞ二人の名前を知ることができなかった。前作ラストで一人は隣国に亡命し、もう一人は故国に残るという衝撃の結末であったが、本作は残った方の双子による物語であり、冒頭でその名前が明かされる。

彼の名は「リュカ(LUCAS)」。そして後々出てくる亡命した方の彼の名前は「クラウス(CLAUS)」 。

LUCASとCLAUS。何やら紛らわしいなと思うその辺りのことは第三作目で見えてくるので今回はスルー。

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相変わらずのシンプルな文体

飾りっ気一切なしの短い文章の連続が物語を浮かび上がらせる作風は本作も健在である。

動物の鳴き声に、リュカは目覚めた。彼は立ち上がり、家畜の世話をする。豚、雌鶏、兎に餌をやる。山羊の群れを川岸へ探しに行き、連れ帰り、乳を搾る。乳を台所へ運ぶ。長椅子に坐る。そしてそこに坐ったまま、日没までじっとしている。
――本書より引用

余計な修飾子など一切なし。刻まれるショートセンテンスのビートが浮かび上がらせる情景を、読み手はただただむさぼればよいのだ。

我が国を代表する某村上氏は、セックスシーンを何ページにもわたって繰り広げたりするが、アゴタ・クリストフ氏にかかればそんなもん一行あれば十分。

リュカは彼女の髪をつかみ、寝室に引っ張っていき、祖母のベッドに押し倒し、そのうなじにかぶりつくようにして彼女を抱く。
――本書より引用

はい終了。

この世には変人しかいないのか?

と、思ってしまうほど前作同様に出てくる人は変わり者ぞろい。

唐突にリュカと同居することになった、父親に近親相姦の被害にあった娘と、その結果生まれた少年。ちなみに娘は「お父さん最高!」で、少年はすごいひねくれものだ。

双子がよく通っていた本屋(文房具も売ってる)のご主人の本性が本作でかなりディープに語られる。そしてその正体はガッツリ狂人でした。

感情の揺れを見せるリュカ

前作における少年時代の双子からは、人間的な感情が見えづらい印象があった。まあ子供なんてそんなものかもしれない。

しかし本作におけるリュカは、冷静な部分がありつつも、苦悩し絶望にあえぐ人々に共鳴するなど感情をあらわにする場面もあって、前作とは大きく印象が異なる。

ふたりが生きた証

リュカは自分の生きた証を詳細に書き残している。隣国に亡命した片割れのクラウスもきっとそうであろうと信じ、書き続ける。

果たして二人は再会できるのだろうか?と期待を抱いていると、またもやラストにぶっ込んでくるよアゴタ・クリストフ。

きっと次作はクラウスのことが語られるであろうことを示唆するエンディング。

迷うことなく三作目「第三の嘘」を手に取る。


著者について

アゴタ・クリストフ
アゴタ・クリストフは1935年ハンガリー生まれ。1956年のハンガリー動乱の折に西側に亡命して以来、スイスのヌーシャテル市に在住している。
1986年にパリのスイユ社から世に送り出したフランス語の処女小説の本書によって一躍脚光を浴びた。その後、続篇にあたる『ふたりの証拠』(88) 「第三の嘘」(91) を発表して三部作を完成させ、力量ある第一級の作家としての地位を確立した。これらの作品は世界20カ国以上で翻訳され、数多くの熱心な読者を獲得した。中でも、日本では1991年に本書が翻訳出版されると、読書界に衝撃と感動の渦が巻き起こり、多くの文学者・作家・評論家から絶賛の声が寄せられた。1995年には著者自身が来日し、アゴタ・クリストフ・ブームが盛り上がり、クリストフ作品は1990年代にもっとも大きな反響を呼び成功した海外文芸となった。作品としては他に小説第4作『昨日』(95)、戯曲集『怪物』『伝染病』、掌篇集『どちらでもいい』(05)がある。
――本書より引用

訳者について

堀茂樹
1952年生、フランス文学者、翻訳家
訳書『ふたりの証拠』『第三の嘘』クリストフ
『シンプルな情熱』エルノー
(以上早川書房刊)他多数
――本書より引用

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