映画『聖なる犯罪者』を観た【感想】
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今月は、前回観た『すばらしき世界』に続き、素晴らしい作品に巡り会うことができ幸せだ。
映画『聖なる犯罪者』観た。「前科者は聖職者になれない」。だが無傷の人生を送る聖職者は現実の悲劇の前では無力だ。罪を犯し悔い改めた者が癒しをもたらす。果たしてそれでいいのか?が頭の中で何回も巡る。素晴らしい作品だった。 #聖なる犯罪者 https://t.co/DW135dJwgm
— neputa (@h_neputa) February 22, 2021
あらすじ
罪を犯し服役中の男「ダニエル」が出所する。
刑務所内で神学に目覚めた彼だったが、前科者は聖職者になることはできない規則によりその希望は潰えてしまう。
小さな村の製材所で働くことになっていたが、彼は村の教会に立ち寄り、身分を偽り、神父として過ごし始める。
その村は少し前に起こった事故により悲しみに暮れている。
信仰が村人のこころを癒すことはなかった。
しかし慣例に囚われることなく魂のこもった言葉を投げかけるダニエルに村人たちのこころは少しずつ動かされていく。
たとえどんなに善意に満ち溢れていたとしても永遠に偽ることなどできない。
やがて村にダニエルの正体をを知るものが訪れる……。
タイトルについて
たまたま目にしたツイートを参考とさせていただきます。
原題は「boże ciało」とのこと。
聖体またはポーランドの祝日『聖体節』を指すらしい。
#聖なる犯罪者 追記:
— ふゆなご (@FuyuNago) February 21, 2021
原題『boże ciało』は聖体またはポーランドの祝日『聖体節』を指すとか。劇中でのキリスト像を指すと思しい。
聖体を拝む行為自体は教義の真髄では無いし、“見てくれ”を偽る主人公が誰より罪人に真摯だったよう、“形”を崇めるだけの信仰に意義はあるか、という問いなのだろうか。 pic.twitter.com/OZxOtd4o3p
調べてみると、英題は「Corpus Christi」。
やはり「聖体」、たびたび映りこむキリストが作品に大きな意味を与えているようだ。
Directed by Jan Komasa. With Bartosz Bielenia, Aleksandra Konieczna, Eliza Rycembel, Tomasz Zietek.
感動したポイント
主人公「ダニエル」役、「バルトシュ・ビィエレニア」
彼の演技を見ているだけでも満足できたかもしれない。
「葛藤からの覚醒」がすごい。セリフはない。だが深い葛藤の海に沈みこみ、ふと神の声が降り浮上する様子が手に取るように伝わってくる。
表情、というか目だけでやってのける。
あと、おくすりガンギマリの時も、ほんとやっちゃってるのかな?というぐらいの素晴らしい演技。
クリスチャンでもなんでもないけど、彼の演技からは、「神」を感じる瞬間がなんどもあった。
やさしい説教
信者ではないので説教とか詳しくない。
だが、ダニエルが扮する神父が村の教会で行う説教はついつい聞き入ってしまう。
実際の説教がどんなもんなのか分からないから比較はできないが、言葉は少なくシンプルだが十分な指摘を含んでいる。
そして、余韻というか言い切ってしまわない。
説かなければならないことを100言ってしまわない。
聞き手に迷ったり考えたりする余地がある。
それが、すごく「優しい」と感じる。
宗教的に言うところの「愛」なのかはわからんけど、沁みる。
隙のない物言いばかりの現代社会の生活はホント疲れる。
だからこそ、ダニエルの説教は沁みたのかもしれない。
伝わる説教
説教ばかりですまん。
ダニエルが追い込まれたあとに行う説教もよかった。
その時の説教は、特定の追い込んできた相手に向けられる。
だが、そこに普遍的なメッセージが込められているのだ。
つまり、普遍的な土台の上に成り立つ(この映画ではキリストの教えに立脚する)メッセージであれば、誰にでも響くし伝えたい相手にもちゃんと届く。
反対に言えば、普遍性に欠ける言葉はただの攻撃にしかならない。
ダニエルは神と対話し、伝えるべき言葉を自分のものとして伝える。
彼の説教シーンは大きなハイライトシーンのひとつだ。
祈り
「沈黙も祈りである」
ダニエルが初めてのミサで述べた言葉だ。
鑑賞中、「祈りとはなにか?」を問われることになる。
登場人物全員が問われているし、観てる側もまた同じ思いに晒されるのではないか。
この作品から浮かび上がる対比の構造がある。
もちろん前科などはなく教会に集まるが、形だけの信仰を行う司祭や村人たち。
一方、前科者だが、全身全霊で祈りをささげるダニエル。
同じ教会に集うものではあるが、両者は立場と心が大きく異なる。
村人たちは自分たちの罪から目を背け向き合うことはない。
ダニエルは、全身の血管が千切れそうなほど祈り、目の前の事物と向き合う。
彼の姿から、「神との対話」「祈り」という行為はつまり「自己との対話」ということなのかなと気づかされる。
ちゃんとした信者から怒られるかもしれない。
信仰をもたぬ者の思いつきでしかないので悪しからず。
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だがそれ以降深くかかわりを持つことなく生きてきた。
ここにきて、映像作品を通じポーランドに触れる機会が増えてきたのは何かの啓示とかだろうか。
いずれにせよ「聖なる犯罪者」も、Netflixで公開中のポーランドのドラマもおもしろいから皆観るといいよ。
長文・駄文しつれいしました。
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