障害年金を自力で申請してみた【視覚障害】
初稿:

本記事の概要
障害年金とは何か。
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。 — 障害年金|日本年金機構 より引用
本記事は、視覚障害のある私が障害年金を自力で申請した記録だ。制度の専門解説ではなく、申請準備から提出までの実体験と、そこで得た教訓をまとめる。
専門的な解説や制度の詳細については、公式サイトや専門家の解説記事を参照してほしい。
まず押さえたい前提
障害年金と障害者手帳は別制度
障害年金と障害者手帳は、名前や等級の印象が似ているため混同しやすいが、制度としては別物である。
- 手帳があるから障害年金を必ず受給できるわけではない
- 手帳がなくても障害年金を受給できる場合がある
障害基礎年金と障害厚生年金の違い
請求できる年金種別は、申請時点ではなく「初診日に加入していた制度」で決まる。ここは最初に理解しておくと混乱しにくい。初診日については後述する。
障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、病気やけがで初めて医師の診療を受けたときに国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。 — 障害年金|日本年金機構 より引用
最低限の用語整理
特に「初診日」と「障害認定日」の定義を正しく理解する必要がある。なぜ、こんな制度設計なのか? などと考えてはいけない。
- 障害等級:障害の程度を示す等級。1級、2級、3級があり、1級が最も重い障害を示す。障害者手帳の等級とは別物。
- 初診日:障害の原因となった病気やケガで初めて医療機関を受診した日。
- 障害認定日:障害年金の支給対象となる障害が発生した日。原則として、初診日から1年6か月後の日。
- 障害認定日請求:障害認定日時点で支給対象となる場合に遡って請求する手続き
- 事後重症請求:障害認定日時点では該当しなかったが、その後に障害が悪化して支給対象となった場合に請求する手続き
申請を決めるまで
今年5月、障害の原因がようやく判明し、先に身体障害者手帳を申請した。
視覚に関する記録 12 - 本格的なロービジョン生活の始まり
障害者手帳を申請し結果待ちの現状、3か月ぶりの大学病院での通院報告、そして障害年金の申請準備を開始したことを記録。手帳とは別制度と知り、社労士に依頼して本格的なロービジョン生活へ踏み出す。
障害年金の存在を初めて知ったのは、昨年ロービジョンケアに通っていた頃だ。担当医から「障害があるとどうしても余計に費用かかるようになる。働きながらでも受給できる場合がある」と助言され、申請を検討し始めた。
「必要だから申請する」と腹をくくった
前回の記事で、「日本は福祉国家だ」と書いた。
視覚障害による身体障害者手帳の交付当日、福祉課での受け取りから医療費助成、福祉タクシー、NHK減免などの申請手続き、東京都の手厚い支援、身体障害者になった日の心境までを記録した記事です。
だが、障害年金の申請は手帳と比べてかなりハードルが高い。申請者の体験談には厳しい話も多い。中には相当、精神的に追い詰められた人もいるようだ。
視覚障害の場合、検査結果の数値による基準が明確化されている。とはいえ、窓口での対応は、相当なストレスを伴うことを覚悟しておく必要がある。
視覚を失い始めてからも、皆と同じように納税し、同じ金額を支払って商品・サービスを利用している。だが社会の多くが「見えること」を前提に作られている。視覚障害があると、日常のあらゆる場面で常に追加の工夫と出費を余儀なくされる。
障害者手帳や障害年金でその費用を賄うには十分とはいえない。それでも家族への負担、将来への不安を考えれば障害年金の申請は避けては通れない。そう考えて、まずは社労士への依頼から始めた。
社労士に依頼して、契約解除に至るまで
1. 依頼時に確認したこと
社労士への依頼では、着手金に加えて成功報酬が必要だった。遡及分が発生した場合は、追加で一定割合を支払う契約も多い。
ネット上を徘徊し、次の条件で社労士を探した。
- 視覚障害(特に指定難病)への対応実績がある
- 報酬体系が明確で、相場から大きく外れていない
- Web上の説明情報が十分にある
問い合わせフォームからの初回相談で経緯を送付し、「申請は可能性がある」との回答を受けた。迷うことなく契約することを決めた。
2. 契約後の違和感
依頼したいとメールを送ると、すぐさま契約書と着手金の振込先が送られてきた。
契約書返送と着手金支払いをすぐに行った。が、その後の進行が急にスローダウンしていった。事前案内にあった面談やヒアリングは一度も行われることなく、メールだけで診断書のやり取りが続いた。
「障害認定日前後3か月の診断書を取得してください。遡及請求を行います」との連絡があり、言われるがまま診断書を取得し、メールで送った。
すると、「視野角度が書かれていないので、この診断書は意味がない。」との連絡がきた。
この時点で、「障害認定日」を私はまったく理解できていなかったし、説明も一切なかった。
認定日とされるこの時期は、まだ最寄りの眼科に通院し、視力低下の原因が分からないまま経過観察を受けていた。大学病院の紹介を受け、精密検査により視野角度が判明したのは、認定日から3か月の期限を過ぎた後だった。
このことは診断書を送る際に伝えてある。それでも向こうは、該当時期の診断書をもらえの一点張りで、このやり取りは平行線をたどった。
違約金発生以前の時点で契約解除を申し出たところ、反論はなく、特に手続きもなく契約解除が成立した。
着手金の数万円は無駄になり、疲労だけが残った。
自力申請へ切り替えた理由
自力申請を決意
申請をあきらめよう。この時点では正直そう思った。
しかし障害が見つかって以降、何かと出費は増え、パートナーへの負担も確実に増している。そんな状況で、私の気持ちの弱さを理由にここで止まるわけにはいかなかった。
悩んだ末に、自力申請へ方針転換した。
自力申請で実際にやったこと
自力申請を決めてから提出完了まで、私の場合は約1か月を要した。
1. 制度理解と準備を先に固める
どうやったら自力で申請できるのか。私は視覚障害があり、長文資料を読むだけでも負荷が高い。そこでAIを補助として使い、次を順に整理した。
- 制度の全体像
- 用語の定義
- 視覚障害での注意点
- 直近の制度改正
- 申請フロー
- 必要書類と取得方法
ポイントは、AIに丸投げしないこと。自分の疑問を言語化し、一次情報(日本年金機構・自治体)で確認する手順を徹底した。
障害の種類によって、申請の際に注意すべき点がある。視覚障害(とりわけ視野障害)に関する点を重点的に確認した。
2. 医療機関の書類を先行して集める
最も時間がかかることが予想されるため、診断書関連の取得を最優先にした。
年金事務所に出向けば診断書のフォーマットをもらえる。混雑していると分かり、公式HPからダウンロードしたものを印刷することにした。
多くの書類がA3サイズの両面印刷を原則とあったが、後述するとおり、A4片面モノクロでも問題なく受理された。
診断書を印刷する際は、原則として、A3両面で印刷してください。— 眼の障害用の診断書を提出するとき|日本年金機構 より引用
取得した医療機関の文書
- 受診状況等証明書(初診日を証明するために必要:最寄りの眼科)
- 診断書1(認定日から4か月後の簡易視野検査の結果を記載したもの:最寄りの眼科)
- 診断書2(認定日から6か月後のゴールドマン視野計の結果を記載したもの:大学病院)
- 診断書3(直近の確定診断を受けた際のゴールドマン視野計の結果を記載したもの:専門機関)
私は原因特定まで3つの病院にかかった。病院ごとに依頼内容を整理したメモを作成し、公式書式と一緒に提出した。最初に受診した最寄りの眼科は診断書の他に、初診日を証明するための「受診状況等証明書」もお願いした。
3. 本人作成書類を埋める
障害年金の請求は、過去に遡って請求する「認定日請求」と、障害が悪化してから請求する「事後重症請求」の2種類がある。
前者の認定日請求には、「症状が出て初めて病院を受診した日(初診日)から、1年6か月後の前後3か月以内に障害を証明できる診断書」が必要となる。
そんなタイミングよく検査を受けたりするのだろうか? そもそも、この当時は自分が視覚障害者だと夢にも思っていなかった。この期間内の診断書がない私は恐らく後者「事後重症請求」であろう。念のため、両方に対応できる準備だけはしておいた。
準備したのは次の3点。
- 障害年金請求書
- 病歴・就労状況等申立書
- 障害年金の初診日に関する調査票
3の書類は指定難病など特定の病気に関する書類。誰しも必要なわけではない。私の場合は遺伝性疾患であり、対象に含まれていたので作成した。
私は手書きでの作成がほぼ不可能。記入量が多く、パートナーに代筆をお願いするのも申し訳ない。AIに調べてもらい、PCでの入力でも問題ない事例が見つかった。PDF編集ソフトを使って記入することにした。
年金機構の公式HPに記載されている「記入例」、動画による解説もひと通り確認した。
1項目ずつAIに相談し、確認しながら根気強く記入していった。不明な個所は窓口で質問することにして、印刷した際に付箋を貼っておいた。
4. 書類が完成し、診断書が揃った
書類が完成し、診断書も揃った。作成開始からすでに1か月が経過していた。あまりに時間をかけすぎた。
診断書の有効期間は3か月以内。期限の基準日は「作成日」ではなく「現症日」。私の診断書は残り10日で期限切れとなる。
とにかく、年金事務所の予約を取っておかなければ。そう思い立ち、ネットの予約スケジュールを確認した。来月まで予約が埋まっていた。
積んだ。また病院で検査を受け直し、新しい診断書を取得する必要があるのか。そんなことになれば、本当に心が折れてしまう気がした。
すぐさまAIに相談した。「書類一式が揃っている」かつ「相談なしの提出のみ」なら予約なしで受け付けてもらえる可能性有りとのこと。
それならば、とにかく書類を仕上げるのが先決。今回、作成を開始する前、自治体の年金課に申請書類のチェックを行ってもらえるか事前に確認していた。すぐに年金課に電話をかけ、明日の午前中に書類を持参することを伝えた。
5. 書類の提出(自治体の年金課)
翌日、パートナーに付き添ってもらい、自治体の年金課へ書類を持参した。電話で話した担当の方と、初めて対面した。とても穏やかな雰囲気の方だ。「養老孟司さんに似ている」と思った。
さっそく書類を見てもらい、「過去の診断書は認定日請求の対象期間と1か月ずれている。審査は大変かもしれない。どうしますか?」と聞かれた。「事後重症請求で」と回答した。
会って間もないが、この方が難しいというのなら、きっとその方がいいと判断した。
空欄にしてあった箇所や日付は書き方を教えてもらい、パートナーに代筆してもらった。すべての書類をチェックしてもらうことができた。
そして、喫緊の問題である診断書の期限が迫っていることを伝えた。
すると、「それなら、今日中に提出してしまいましょう」「戸籍窓口で戸籍謄本を取得してきてください。扶養に関する審査がスムーズになります」と言われた。
今日中に…提出する…だと…???
申請窓口は年金事務所のみと思い込んでいた。自治体の年金課でも受け付けてくれることを初めて知った。
担当の方がその場でポン、ポンと、次々に受領印を押していく。何が起きているのかまだ理解できないまま、その光景をぼんやりと眺めていた。
「明日の便で年金事務所に送っておきます。私は昼で上がらないといけないので、戸籍謄本は昼担当に渡してください。わかるようにしておきます」
嬉しさよりも驚きの方が勝っていたように思う。うまく言葉が出ず、「うおっ」とか「えおっ」とか言っていた気がする。そして、席を立つ際に、
「手続きの中でもかなり難しい書類ですが、よくここまで揃えましたね」「十年以上、障害年金の申請を見てますが、自力でここまで揃えた人は初めてだ」とまで言ってくださった。
肩に入っていた力が一気に抜け、泣きそうな気持になりながら、精いっぱいの感謝を伝えた。名前を聞きそびれてしまった。
そのあとすぐに戸籍謄本を取得し、年金課に提出した。昼担当の方から「○○さんから聞いています。確かに受け取りました」と言われた。
お名前が分かった。私はこの方との縁を生涯わすれない。
社労士依頼と自力申請、それぞれの教訓
はじめは社労士に依頼したが、結果的に自力で申請することになった。
着手金が無駄になった一方で、成功報酬の支払いが不要になった。仮に申請が通った場合、金銭面だけで言えば安く済ませることができたと言える。
自力申請の完全勝利か?
IFはない。それでも、良き社労士に巡り合い、スムーズに申請を終えていたらどうか? 私は社労士の完全勝利を喧伝していたかもしれない。
つまり、どちらが最適かは個々の状況によって変わる。両方の経験から得られた教訓をまとめておく。
社労士に依頼する場合
- 紹介なしの飛び込み依頼は慎重に判断する
- 一見で飛び込むにはハードルが高い。自分を強運の持ち主と侮るなかれ
- 自治体の福祉担当者など、すでに接点がある人を介してつなげてもらうのが無難
- 契約前に、最低1回は音声または対面で相性と理解度を確認する
- たとえ相談料が発生したとしても着手金に比べれば安い
- 最新のテクノロジーが最良とは限らない。テキストだけのやり取りで見極めるのは危険
自力で申請する場合
- 無料の相談先(自治体年金課・年金事務所)を先に確保する
- 制度理解と用語整理を先に済ませ、書類作成はその後に着手する
- AIは補助として使い、必ず一次情報で裏取りする
- 書類を一気に作らず、単位ごとに確認しながら進める
- 診断書の有効期限を最初に逆算し、提出日を先に決める
まとめ
申請を終えた今の率直な感想は、「本当にしんどかった」の一言に尽きる。
今回の私のケースは、
- AIサービス
- パートナーの支援
- 自治体の担当者による神対応
以上3つの条件がそろって起きた奇跡だ。
年金事務所の窓口が最大のストレス要因だったが、これを回避し、地元の自治体で完結できたことは、私にとって大きな救いだった。
審査は通常、申請から3か月程度はかかるらしい。仮に審査が通ったとしても、支給開始までさらにかかる。
ダメだった時はどうするか? 今は何も考えられない。その時にまた考えよう。
障害者手帳も障害年金も、障害で困っている人にとって著しくハードルが高い制度だ。障害は自己責任ということか。
ずいぶんと長い道のりだが、まずは申請を終えたことに安堵している。
ひとつの申請事例としてネットの海に流しておく。どこかの誰かの養分となれば幸いだ。